店主の食卓

旦那の居場所第16回 秋刀魚礼賛

女将のダンナは「惣菜管理士」というあまり知られていない資格を持っている、 ただのサラリーマン。とにかく大の料理好き!・・で、このお店を間借りさせて あげることにしました。 名づけて「ダンナの居場所・・居酒屋のおやじを夢見て」。 これからも色々な素材を取り上げていきますのでお立ち寄りください。*この記事は1998~2005年に書かれています


物心ついた頃から、魚はことごとく食べられなかった。 「焼き魚」というカテゴリーを克服できたのは、ひとえに「秋刀魚」のお陰。 「騙されたと思って食べてみな。」母親の勧めに、目をつぶって口に放り込む。 「うまい!」。魚嫌いがその一事で「目から鱗」。でもこの魚はウロコもなくて食べやすい。 しかも、骨離れの良さに、魚の食べ方を知らない魚嫌いも大助かり。 今では、食べられない魚は、いなくなった。

築地の場外で、刺し身用の、それは型の良い秋刀魚を手に入れたのは、10数年前。 家で秋刀魚の刺し身を作るのは初めてと、朝から食べる。 思えば、その頃までは、秋刀魚は加熱して食べるもの。生で食べられるのは、 産地の特権と相場が決まっていた。 寿司屋にでも行かなければ、食べられなかった秋刀魚の刺し身。 今では、なんと手に入りやすくなったことか。


● ● ● ● 「秋刀魚うまさの秘密」 ● ● ● ●

秋刀魚といふ魚、味は抜群。 淡白すぎず、臭すぎず、柔らかすぎず、脂っぽ過ぎず、どこかのバランスが 少しでも狂えば、下品で野暮な味になってしまうだろうが、ギリギリの線で最高のうまさを誇る。 しかも、血合いの奥深さ、腹綿の苦さ、皮の香ばしさ、どこをとっても申し分ない。 体調約30cm。刀のような、冷たく輝く、ラメの入った魚体。 胴の膨らみを両断すれば、透き通った魚肉と皮の間に、脂肪の層が見える。 春から夏にかけてえさを求めて北上、 8月にはオホーツク海からサハリンに達し、 水温が低下するにつれ南下、(水温15~18度好む) 9~10月に三陸沖に出現。 遠く江戸時代には、房総沖までたどり着いた秋刀魚は、 脂の乗りも最高で、これが水揚げされれば、河岸は大騒ぎ。 秋刀魚は、魚偏に祭とも書き、房総のさんまがあまりに美味いので、「 さんま騒がせ」 なる言葉まで残した。

● ● ● ● 「サンマ、サンマ、サンマ開きか、灰干しか」 ● ● ● ●

秋刀魚を炭火で焼くと何故美味いか?遠石効果もさることながら、 自らの身体から落ちる脂で、ジュージュー香ばしく燻され、腹からも、脂と共に、余分な臭味が飛んで、 絵も言われぬうまさに変わる。 アウトドア・ブームの昨今だが、我が家では屋外バーベキューは肉でなく魚、秋は専ら秋刀魚。 こんな贅沢は、マンションの中では味わえない。 開きもうまい。特に骨の残った半身の表面のせんべいみたいになった奴を骨からビローンと 剥がして食うのがうまい。ぬか漬けも良し。灰干しも良し。さんまの美味さが凝縮されて 格調高い味になる。そこはかとなく、うまい、秋の王様、秋刀魚。

■■■ 家庭でもほんとにおいしい、秋刀魚アレコレ ■■■

「秋刀魚の蒲焼き」 学生時代、酒のつまみにお世話になった100円の「さんまの蒲焼き」缶詰め。 こってり味だから、日本酒、焼酎、なんでも相性が良かった。 しかし、自分で蒲焼きを作って、吃驚仰天。手作りの蒲焼きもまた、 缶詰めとは異なる絶品のつまみ。

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「秋刀魚の蒲焼き」

秋刀魚は三枚に卸し、片栗粉をまぶす。 フライパンに少な目に油を敷き、身から先に、両面を焼き上げる。 余分な脂を除いてから、蒲焼きのタレをかけ、強火でからませる。 粉山椒をふりかけて。あとは、酒でもご飯でもなんでもござれ。 タレ=酒2、みりん3を軽く煮切り、濃口醤油3、砂糖1。

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「サンマの燻製」 旬の魚の熱燻は、その魚が持つ本来の個性を楽しめる。 余分な脂とともに、雑音が取れ、本来のうま味だけが強調される。 「サンマの薫製」、どのタイプのアルコールにも合う、抜群の秋のつまみ。
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海水程度の塩水に、ハーブを入れて、サンマを1時間漬ける。 中華鍋にスモークチップを入れて、網をのせ、サンマを入れて じっくり燻製にする。温薫よりやや熱い程度で、(ガスなら弱めの中火) 30分程度スモークする。途中でひっくり返さない方が美しく仕上がる。 中華鍋でも代用はできるが、この際、簡易スモーク用のホーロ製鍋を 揃えても悪くない。料理の幅がグンと広がる。

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「秋刀魚の豆鼓蒸し」 柔らかく、熱い秋刀魚を、鱈腹喰いたい。そこで、蒸し料理。 面倒なら骨ごと筒切りでも、大胆で素適。
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サンマは三枚に卸して、10分タレにつける。 タレは、しゅうゆ3、みりん3、酒1。 豆鼓、しょうが、好みでにんにくを刻み、鍋に油を温め、 豆板醤、にんにく、しょうが、豆鼓を軽く炒める。 タレつきサンマを皿に入れ、炒めた香りの素をからめ、蒸す。 このタレつきサンマ、軽く陰干しにして、焼いてもうまい。

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旦那の居場所、今回は「秋刀魚(サンマ)」のおいしさについてでした。 「サンマは目黒に限る。」という昔から庶民の重要な蛋白源。 ビタミンA・E、ナイアシン、カルシウム、微量栄養素も豊富で、DHAもいっぱい。 夏の疲れが出る頃に、海に囲まれた魚好きの民族に、神様が遣わされた海の恵み。 昔の人は「秋刀魚が出ると按摩引っ込む。」と言ったとか。 四日市在住の折り、紀伊半島を一周して、熊野周辺の名物の 秋刀魚の姿寿司、めはり寿司などを食べに行った。 庶民の魚サンマには、それぞれの土地土地の呼び名や郷土の料理法が あるに違いない。 それにしても、秋刀魚といえば塩焼き、塩焼きといえばさんま。 これはひょとすると、、日本を代表する最強の魚料理かもしれないなどと、 妙に一人で納得しつつ、食欲の秋、アツアツをご飯にのせれば、 2~3杯はすぐにお替わりというから、ホント秋刀魚の魅力とは不思議なものです。

(99年10月 copywright hiroharu motohashi)

旦那の居場所第15回 「旅にしあれば旅の味」礼賛

女将のダンナは「惣菜管理士」というあまり知られていない資格を持っている、 ただのサラリーマン。とにかく大の料理好き!・・で、このお店を間借りさせて あげることにしました。 名づけて「ダンナの居場所・・居酒屋のおやじを夢見て」。 これからも色々な素材を取り上げていきますのでお立ち寄りください。*この記事は1998~2005年に書かれています

仙台・山形編 お盆休みを利用して旦那の弟の住む東北への旅、旦那の目的は「うまいもの」。 時節柄、当然営業していない店もある。 旦那の弟は、情報源を駆使して、当然、事前に当たりはつけてある。 行き当たりばったり、嗅覚だけで「うまいもの」を探すのも旅の楽しさだが、 今度はいつ行けるかわからぬ仙台への旅、しかも、2泊3日。 限られた時間で行列を避け、ここぞ決めたものを、鱈腹食うのも、またいいものだと思う。
 


● ● ● 伊達の牛たん ● ● ●
味 太助、喜助、まるたん、元太、鼓、利休、一隆…。仙台にうまいものあり、その名も牛たん。 発案といわれる味太助をはじめ、名店、老舗、一番うまい店は限りなくある。 しかし、こちらは三歳の娘が同道しているので、迷わず仙台駅内の伊達の牛たん本舗へ。 ここなら、親子連れでも、酒飲みでも万事受け入れ可能。 7~8mmの厚さに大胆にカットした、芯タンの塩焼きに、むぎとろ、キャベツの一夜漬け、みそ南蛮漬けに、テールスープと大迫力。(牛タン定食1200円!)

噛み切れない肉は大嫌いという三歳の娘は、柔らかい「極上芯タン」をバクバク。(極上芯タン定食1600円!) 「器ごとここに置いて!」と叫んで、テールスープを一気に飲み干した。仙台の「牛タン」は正に1つの食文化。麦めしからテールスープ、みそ南蛮漬けに至るまで、 永年の試行錯誤が育んだ食の芸術。 たん豆腐やタンシチューなど、タン一本を使い切るサイドメニューの知恵にも脱帽。

 

● ● ●「○△□(まるさんかくしかく」● ● ●

kinki.jpg さて、初日の夜は、仙台の地酒と魚のお楽しみ。だだちゃ豆をつまみに、まずビール。 お次は、つぶ、あわび、北寄、サザエの造りで、浦霞。 ガゼウニを殻ごと持って、竹のスプーンでこそげとって、カブリ、トローリ。お酒もう一杯。 脂が乗った吉次の塩焼き、カレイの唐揚げ、まぐろの軽く炙ったやつ、ほや、穴子の蒲焼き。 豊富なお酒は、なんと、大き目のグラスで1杯500円均一。(久保田の千寿も500円!) 料理も、まだまだ食べて。〆て一人7000円弱。 え、ほんと? こうした「良い店」がこの町には、夜空にきらめく、七夕飾りのごとく。…無数にある。 今回は、稲荷小路の「○△□(まるさんかくしかく」の2階の座敷に上がり込みました。

 

● ● ●「塩竃の寿司屋で一杯● ● ●

funamori.jpg2日目は、泊まった仙台センチュリーホテルの和定食からブレイク。 松島を巡って、昼は塩釜の寿司屋と決めてある。 本塩竃駅から程近い、海岸通りの「しらはた」。 かの有名店「すし哲」の行列の先にある、細い路地のミニ魚市場を通り過ぎた左角。 上にぎりで2000円。これに大盛の目抜きの味噌汁400円を飲んでも、 満足度からして1000円は得した気分だ。 この店の名物「しおがま風いわしのたたき(850円)」は是非試して欲しい逸品。 教えて頂いたわけではないのだが、あまりにうまい故、自分で作ってみると。 鮮度の良い脂の乗ったいわしを三枚に卸して、さっと薄塩。酢水で洗う。 酒、少量のみりんを煮きり、淡口醤油と塩をほんの少々。橙をたっぷり絞りこれに合わせる。 いわしに、千切り大根とねぎの小口切りをこれでもかと乗せて、このタレをかける。 かきまぜて、大根にもタレがしみた頃合いで、むしゃむしゃ食べる。料理には「特許」も「著作権」もないから、本当に楽しい

. ● ● ●秋保で一番うまい宿● ● ●

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仙台の奥座敷、秋保温泉で今、一番うまい宿は「きよ水」 料理にも勢いがあるが、そこで働くスタッフにも覇気がある。 「もっと良い宿にしたい」スタッフ全員の思いがひしひしと伝わる宿。 料理のはじめは、いきなり鮑を丸ごと目の前で焼く。一人一個の贅沢さ。 小芋と金目の炊き合わせは絶品。なんとも濃厚な引き揚げ湯葉の胡麻ダレ和えも乙な逸品。 夜は子供達のためのスイカ割、早朝は浴場の前で、前日の金目のアラで拵えた抜群の味噌汁のサーブがあり感心。


● ● ●そば喰い千里を走る● ● ●
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「うまい蕎麦なら、山形まで走るか。」弟はどうしてもここの蕎麦を食わせたかったらしい。 山形といえば、板そば。四角い木箱に盛る、コシの強い、太打ち蕎麦だ。 まずは、そばの実(そばの実を、なめこ、かつお節、大根おろしで和えたもの)、揚げそば (そばを一本一本揚げて南蛮(唐辛子)を振ったもの)をつまみに、冷で「男山」。 お次は、そばだが、ここの「大板そば」のボリュームはスゴイ。上品な店のそばなら4~5人前はある。 これで、2,200円。それに、てんぷら、山芋、納豆など、好きなものを添えて食べる。 さて、三津屋の板そば、板そばにしては、固すぎず、太すぎず、比較的、ヨソモノでも食べやすい。 香りは、さほどないが、そば本来の味を楽しめる。 つゆも濃すぎず、そばの力との調和が良い。 あまりにうまいので、最後の「そば湯が飲めません。」というまで、そばを腹いっぱい食べてしまう。 白い頭巾とおそろいのエプロンを着た女性の店員さん達がキビキビと働く姿は小気味が良い。 素朴だが的確に注文の相談にも乗ってくれる。 折角だからと天童まで足を伸ばして、大好きな酒「出羽桜」の酒蔵も訪ねることができた。

 


 

● ● ●他にも食べたうまいもの● ● ●

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仙台名物長なす漬けにずんだ餅、勝山酒造の「たまご酒」、雪村の「ずんだみつ豆」、松島では焼き立ての笹かまに豆腐入りかまぼこ、山形では玉こんにゃく おみやげには、萩の月、出羽桜酒造の銘酒、南蛮味噌漬け、ぺちょら漬け、青菜(せいさい)漬けにさくらんぼ漬け。 ああ、本当に満足、満足。

 

 

 

 

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旦那の居場所、今回は「旅にしあれば旅の味」仙台・山形のおいしさについてでした。 この旅で、本当にうまいと感じたものは、決して特殊な素材ではありませんでした。 日本全国どこでも獲れるもの、しかし、それがとびきりうまいのは、この土地の持つ 豊かな風土と、少しでもおいしく食べようとするこの土地の人々の豊かな知恵があればこそ。 そして、どの店でも、大人数、子供連れでも嫌な顔をされることはありませんでした。 東京からなら通勤も出来るとういう便利な仙台。それなのに、こんなに豊かな自然の恵みと 素朴な人情が溢れているというのだから、 ホント仙台・山形の魅力とは、不思議なものです。

仙台 伊勢の牛たん 仙台駅店 022-715-5056
仙台 稲荷小路の○△□(まるさんかくしかく) 022-222-1471
塩竃 しらはた(寿司) 022-964-2221
秋保 ホテル きよ水 022-397-2555
山形 三津屋本店 023-644-4973
天童 仲野酒店 023-653-2387

(99年9月 copywright hiroharu motohashi)

旦那の居場所第14回 豆腐礼賛

女将のダンナは「惣菜管理士」というあまり知られていない資格を持っている、 ただのサラリーマン。とにかく大の料理好き!・・で、このお店を間借りさせて あげることにしました。 名づけて「ダンナの居場所・・居酒屋のおやじを夢見て」。 これからも色々な素材を取り上げていきますのでお立ち寄りください。*この記事は1998~2005年に書かれています


子供時代、一番嫌いな「おつかい」は、豆腐だった。 理由の1つは、店頭にものがないこと。「絹ごし」、「油揚げ」キチンと 名前を言えないと買えない。指差し発注のできない唯一の店だった。 理由の2つは、独特の店の雰囲気だ。店内はいつも濡れている。大豆の蒸れる臭い。 油のにおい。時々バーナーで豆腐に焼き目をつけている凄まじい光景に 出会う時だってある。 理由の3つは、包装のいい加減さ。水の中で、プラ容器に豆腐をすくいとり 紙をのせて、ビニールかなんかでくるんで渡される。 うっかりすると、家に着くまでに下半身が水浸し。 商店街が消え行く中で、思えば真っ先に、「豆腐やさん」が減っていった。


● ● ● ● 「豆腐美味いかな」 ● ● ● ●

豆腐のうまさ。 まず、温度。豆腐の熱への順応性と保温力は素晴らしい。 氷の様な冷たさ、室温の表情の豊かさ、食道で感じるアツアツ。全温度帯対応のうまさ。 次に食感、絹ごしのやさしさ、木綿の力強さ、ボロっ崩れたり、サッと溶けたり、しばらく舌の 上で味わっていると、口から鼻へ独特の香りが伝わってくる。 味はといえば、ぱっと真っ先に感じる甘さ、次にエグ味か苦味か。最後は、また奥深いコクのある甘さ。 独特のエグ味故に、大豆そのものは、そう一度にたくさん食べられない。 故に、大豆は主食になれない運命に生まれた。しかも、種子が固くそのままではおいしくない。 だから、長い年月をかけて工夫され、おいしく栄養価の高い食品として発達したのが、豆腐なのだと思う。

 

● ● ● ● 「豆腐百珍」 ● ● ● ●

旦那の生家の界隈では、「五右衛門」「細雪」など、豆腐料理の老舗がある。 我が国には「豆腐百珍」なるロングセラーもあり、豆腐のおいしい食べ方は無数にある。 しかし、不思議なもので、豆腐の好きな食べ方はと聞かれたら、 1に奴、2に湯豆腐、それ以降は「う~ん?」となってしまう。 理由は、やはり、豆腐本来の、香り、食感、味が楽しめるからだろう。 蝉の声を聞きながら、縁側で食べる「冷奴」。 真夏でも何故か日本酒で、「冷奴」がたまらない。 鮮度の良い醤油と少しのひねしょうがが相性だ。 わさびや七味、柚子胡椒、しその実や、山葵のかす漬けなども良い。 もちろん、何もつけずに、何も添えずに。もうまい。 「冷奴」を凌ぐ豆腐のうまい食べ方はない。


■■■家庭でもほんとにおいしい、豆腐アレコレ ■■■
自家製のドレッシングをさっとかけて。 豆腐を夏野菜と夏薬味で食べる。 ざっと簡単に作るのも良いが、少し手間をかけると、 抜群にうまい。よく冷やした白ワインとの相性は抜群。 「豆腐と夏野菜のサラダ」
 


touhu02.jpg「豆腐と夏野菜のサラダ」


茄子は皮をむき、色止めしながら茹でる。スナックえんどうや胡瓜、 アスパラ、たまねぎなども、食感を活かしてさっとボイル。 それらを薄めの出汁につけて冷やす。 豆腐は好みの大きさに切り、味噌を塗って冷蔵庫で冷やす。 食べる直前に豆腐の味噌を出汁でサッと洗って盛り付け。 よく冷やした完熟トマトを添え、みょうが、青しそ、刻みのりなど散らす。 ドレッシングは、しょうが、にんにく、玉ねぎ、みょうが、青しそ、 バジルの葉、塩、胡椒、からし、酢、グレープシードオイルをプロセッサーで攪拌。

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冷酒にあう「夏の豆腐のつまみ2品」。 加熱は不要。しかし、冷蔵庫で2~3日かかる。 チーズというかなんというか、でもどこかで食べたことがある様な・・。 遠く中国まで旅して、豆腐のルーツを訪ねたら、こんな2品があるに違いない。 休日は朝から、「今日こそは」と待ちわびる乙なつまみ。

touhu03.jpg「夏の豆腐のつまみ2品」

どちらの料理も少し甘味のある上等な「絹ごし」を使いたい。 豆腐は賽の目に切り、器に入れ、さっと振り塩。 グレープシードオイルで漬け込み、バジルを散らし冷蔵庫で。 2日目くらいから食べる。チーズのオイル漬けの様でもあるが、もう少し爽やか。

お次は、豆腐を一口大に切り、好みの味噌にすっぽり漬け込む。 ラップに味噌を塗り、豆腐を置き風呂敷き包みが便利。 3日~1週間位楽しめる。熟成が進むにつれ、表情が変わる。 使命を果たした味噌も味噌汁で無駄無く使える。

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赤坂 四川飯店の名人に、陳麻婆豆腐の作り方を伝授して 頂いたことがある。 調味料の使いこなし、加熱の仕方、油の隠し技。 中国料理が、科学的で、システマチックな料理で あることを、改めて実感する。 それをベースに家庭でも簡単に出来る「四川麻婆豆腐」 これをやる時はいつもより多めにビールを冷やしておく。 アツアツのご飯にかければ、夏バテは消え失せる。 「麻」とは舌がしびれる辛さのこと。中国山椒の辛さで新陳代謝は活発に。


touhu04.jpg「四川麻婆豆腐」

弱火でにんにく、ねぎのみじん切り、豚挽肉を油が透き通るまでよく炒める。 甜麺醤で味付け、別皿にとっておく。(これだけでもメシが2~3杯はペロッと食べれる。) 絹ごしは1cmの角切り、別鍋に湯を沸かし、塩少々で茹でる。 中華鍋に、油、豆板醤を入れ、香りを引き出し、合わせ調味料、炒めた挽肉、 水を切ったボイル豆腐、ねぎを入れて、強火で煮る。水溶き片栗粉で トロミをつけ、最後に鍋肌から、保温と香りのためのごま油をまわしかける。 好みで中国山椒をたっぷりかける。 (合わせ調味料)刻み豆鼓または豆鼓醤、甜麺醤、醤油、紹興酒、ガラスープ、好みで砂糖 (子供向け)豆板醤、豆鼓、中国山椒は使わず、合わせ調味料にトマト1個分を入れる。


旦那の居場所、今回は「夏の豆腐」のおいしさについてでした。 「豆腐」と「納豆」という漢字は、あべこべではないか?以前から思っている疑問。 「キリギリス」「こおろぎ」がいつの間にか入れ替わった様な具合で。 納豆は見た目も匂いも、いかにも「豆が腐っった」という感じ。一方、あの豆腐の品良さ、乳白色の瑞々しさ。 正に「豆を納める」というにふさわしい。 これと同じようなことを、最近、渡辺淳一氏がエッセイの中で書いていたのを読んだので、 同じようなことを感じている方は多いのではないか。 「瀬を早み岩にせかるる滝川の われても末にあはむとぞ思ふ」 百人一首でもお馴染みの崇徳院の歌。寒天などで固めに作った豆腐を縦長に細切りにし、滝川の流れに 見立てて、冷たい出汁を張って食べる「滝川豆腐」 たおやかで、品の良い、涼味あふれる「夏の豆腐」の逸品。 それにしても「夏の豆腐」を食べながら、まだ明るいうちから、冷酒をちびちび。 もうそれだけで、「人生最高の贅沢だ」なんて、思ってしまうからホント 「夏の豆腐」の魅力とは不思議なものです。

(99年8月 copywright hiroharu motohashi)

ふき・ふきのとう

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写真左は蕗を葉と茎に分けて、茎はだしと塩で煮て、葉は酒・醤油・みりんで煮含めたものです。実家の母がよく作っていましたが、小学生のときに蕗の茎をさっと湯がいて水にさらしたものを筋をすーっと取るお手伝いするのが好きでした。綺麗にとれるのが気持ちいいいのと、色がなんとも綺麗だったから。葉のほうはかなりあくが強いので長い時間水にさらしてから濃い目の味付けで煮ていきます。

写真右は蕗の薹と松の実を細かく刻んでオリーブオイル・酒・醤油で炒めたもの。どちらもご飯のオカズに、お酒のつまみにもなります。夫作。まだ寒いですが春を感じる匂いですね。

旦那の居場所第13回 ステ-キ礼賛

女将のダンナは「惣菜管理士」というあまり知られていない資格を持っている、 ただのサラリーマン。とにかく大の料理好き!・・で、このお店を間借りさせて あげることにしました。 名づけて「ダンナの居場所・・居酒屋のおやじを夢見て」。 これからも色々な素材を取り上げていきますのでお立ち寄りください。*この記事は1998~2005年に書かれています

「今日はビフテキにでもするか!」子供の頃は、父親の一声に狂喜乱舞したものだった。 家でナイフとフォークを使う御馳走は、この「ビフテキ」以外には登場しない。 それにしても、何故か「ビフテキ」といった。牛肉に対する特別な価値観が当時の日本にはあったのだ。

外食では、高価で手の出ない料理。お買い得の肉をそれでも奮発して買ってきて、大騒ぎした。 なんでも兼用の家庭のフライパンで焼くのは至難の技。「ステーキはレアに限る」なんて 言いながら、父親はまだ中が冷たい肉を美味そうに食べていた。

● ● ● ● 「ステーキ美味いかな」 ● ● ● ●

世界で一番美味いステーキハウスをご存知か?ニューヨークはブルックリンの ピーター・ルーガー・ステーキハウスを置いて他にない。 ここのTボーンを食べたいだけで、命からがらブルックリン橋を越えたのは、3年前の春。 期待をはるかに絶するTボーンステーキのうまさに脱帽。 これはどうやって焼いたのか?オーブンは何度か?どのくらい大きいオーブンがあるのか? たどたどしい英語で質問攻めにされて、これにはベテランの 接客のプロも相当閉口していた。 USビーフは硬い、臭いが気になる、ジューシー感がない。

今までの固定観念は吹き飛んだ。 表面はカリッとクリスピー、中はジューシー、噛むほどに肉の旨味が口中に広がる。 分厚く白い器にたまった肉汁をつけながら、ヒレとサーロインをTボーンから交互に切りとって 口に運ぶ。まさに至腹?のひととき。この国の人間はこんな美味いものをいつから食っていたのか?

● ● ● ● 「ステーキのこと」 ● ● ● ●

思えばステーキという料理。極めてラジカルで原始的。肉を切り分けて焼くだけ、 料理の原点だ。家庭では肉をサーブするのは、男性の仕事。狩猟時代の名残は 今でも西洋のマナーの中に残っている。 さて、調理法。鉄板で焼く。網で焼く。または、オーブンなどでローストする。 熱源は?電気、ガス、炭火。 程よく脂を抜いて!そんなことしたらもったいない! ソースは?塩・胡椒だけ?それも片面のみ? 思えばステーキという料理。極めて繊細で、奥が深い。肉を切り分けて焼くだけ、 料理の芸術だ。 良質の蛋白質と同時にビタミンA、B1、B2の補給には最適、古人の知恵か偶然か?

★★ 家庭でもほんとにおいしい、スーテキアレコレ ★★

この道具との出会いは、自分で焼くステーキの味に革命をモタラシタ。 表面はクリスピーに、中はジューシーに。 安価になったとは言え、霜降りの柔らかそうな一枚。侮れる値段ではない。 失敗は許されないから、今夜もこれを使う。 「クリスピー・カバーで焼くクリスピーステーキ」

◆「クリスピー・カバーで焼くクリスピーステーキ」◆
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肉は好みの部位を。早めに冷蔵庫から出し室温に。 焼く直前に塩・胡椒。良く熱したフライパンに脂を引き、肉を入れすかさず クリスピーカバー。ひっくり返しは一度で決めたい。時々、焼色を見て、今しかない というタイミングでひっくり返し、またカバー。 カバーの最上部が空いているので、ここから小量の香りのための酒を注ぐ。 酒はお好みで。ウイスキー、ブランデー、白ワイン。我が家ではこの順に 登場する頻度が高い。もちろん焼き上がった時にはテーブルはすべて 準備が整っていなくてはならない。


特売の安いステーキ肉。国産、輸入を問わない。 サシの入っていない、硬い肉でも、 少しの工夫で、抜群にうまくなる。
「野菜たっぷり煮込みステーキ」


◆「野菜たっぷり煮込みステーキ」◆
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肉はこれでもかといううくらい筋を切る。 1枚につき1/4個程度のたまねぎをすり卸し、マリネしておく。 野菜は、もやし、コーン、いんげん、えのきなど。 あらかじめ、軽く油で炒めるか、茹でておく。 タレは、赤ワイン、醤油、日本酒、みりん。 フライパンに油を敷きにんにく、肉を入れ両面をやや短めに焼く。 フライパンのすき間に野菜を入れ、全体にタレをかけ、フタをして、2~3分煮込む感じで。


六岡山から車で北に2時間、勝山という町がある。 酒造りや林業、木材加工の盛んな美しい町。 旭川畔には、あの高瀬舟の発着場の跡が残る。 この町に蔵元「御前酒(ごぜんしゅ)」の経営する、和食処「西蔵」がある。 酒の貯蔵庫を改築したなんとも素敵なお店。 銀鱈の焼き物や美作牛のステーキ丼など、ここの料理はなんでもおいしい。 なによりは、食事の前にまず、「御前酒」の吟醸が出る。 ここで食べた「ステーキ丼」の味はDNAが記憶した。


◆「シンプル イズ ベスト のステーキ丼」 ◆
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長ネギ、刻みのり、タレを準備する。 タレは好みだが、酒1、みりん1を煮切り、醤油1を足して弱火で加熱。 味が馴染んだら少し寝かせる。時間が経つ程に良し。 肉の厚さは、出来れば1cm欲しい。フライパンとクリスピーカバーで 焼いて、最後に少量、上記のタレとバターの風味付け。 あつあつご飯に、のり、一口大に切った焼き立てのステーキ。 長ネギは、斜め小口に切り、水にさらし、水分を多少残してレンジで40秒。 タレは加減しながら、まんべんなく回しかけ、ネギを天盛りに。 息継ぎをせず、一気に食べちゃう方がうまい。 酒1、みりん1、醤油1のタレは、万能調味料。ステーキソースにとどまらず、 和洋中、肉魚野菜、なんでも使えちゃう、強い味方。



旦那の居場所、今回は「ステーキ」のおいしさについてでした。 西牛東豚、「神戸」に限らず、西では、どの街にも、抜群にうまい 「ステーキハウス」が無数に存在する。 岡山の「佐向吉」では、つけあわせの野菜を自家製で賄う。 家族でこの農園を訪ね、ハーブをかじりながら、収穫の楽しさを味わった。 広島の「みき」も、常に研究を怠らない店。「瀬戸のほんじお」をご愛顧頂いている。 どちらもご夫婦だけのこじんまりした店だが、料理への情熱と食材へのこだわりは凄まじい。

人類と「牛肉」とのつきあいは、かれこれ5000年くらい。 ピラミッドには人間が牛肉を食べる絵が残っているというからスゴイ。 日本では、一般に牛肉食が普及したのが、明治以降。 「牛肉」とのつきあいは、まだ始まったばかりだ。まだまだ、うまい食べ方があるに違いない。 それにしても「ステーキ」、あの歯切れの良い、弾力のある、繊維を断ち切る音と、肉汁がほとばしる音。もう、、こんな風に考えていると、早朝だろうが、深夜だろうが、無性に食べたくなって しまうというから、ホント「ステーキ」の魅力とは不思議なものです。

(99年7月 copywright hiroharu motohashi)
99/7月

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