店主の食卓

旦那の居場所第29回 冬の鍋礼賛

女将のダンナは「惣菜管理士」というあまり知られていない資格を持っている、 ただのサラリーマン。とにかく大の料理好き!・・で、このお店を間借りさせて あげることにしました。 名づけて「ダンナの居場所・・居酒屋のおやじを夢見て」。 これからも色々な素材を取り上げていきますのでお立ち寄りください。*この記事は1998~2005年に書かれています

鍋にまつわる思い出は枚挙に暇がない。学生時代、柔道部の合宿所で、他部の友人を 招いて行う鍋大会。時に相撲部に伝わる特製ちゃんこ等、客人から教えられた味も多い。 蓋を開けると立ち上る湯気。冬の鍋には日本人に生まれて良かった。と唸らせる滋味がある。

● ● ● ●冬の鍋うまさの秘密 ● ● ● ●

寒さと共に素材が本当にうまくなる時期、気の合う仲間と鍋を囲めば、いつしか「おしくらまんじゅう」をしている 様なしみじとした連帯感が広がる。 梅が香り、桜がほころぶ季節になっても、しんしんと堪える花冷えの夜には、これまた鍋が良く似合う。 新しい季節の訪れを感じさせる、命の息吹を鍋にたっぷり放り込めば、眠っていた身体が目覚めるほどの 香りとほろ苦みを楽しめる。 初対面でも「それでは自家箸で。」なんて一言断れば、もう気分は親戚同然だし。

家族団らんを絵に撮れば、もう鍋を囲む姿しか想像できない。 「すきやき」「しゃぶしゃぶ」でなく、「ちゃんこ鍋」や「ねぎま鍋」などつつく男女を見たら、 差しつ差されつ、それはもう「疑わしきこと、羨ましきこと、甚だしい」雰囲気となる。 全国津々浦々、数多ある鍋の中で、記憶に残る鍋のうまさ。それは必ず、一緒につついた誰かの 笑顔と重なる忘れられない、懐かしい懐かしい舌の思い出だ。

● ● ● ●冬が嬉しい、春が待ち遠しい、うまい鍋たち ● ● ● ●

6年振りに東京で過ごす冬。人形町のねぎま鍋、よし田のかも鍋、新三浦の水炊き ちゃんこ川崎のちゃんこ鍋、神田のあんこう鍋・・。財布と相談すれば、とても一冬では回りきれない。 その上全国各地でうまい鍋が僕を呼んでいる。ふぐ、かき、アラ、ぶり、鮭、カニ、鯨、・・はてさて、どうしたものか。 人生先は長いから、今年はいけるところまでで、まあ良いか。 初春の素材もまた楽しみだ。菜の花、ふきのとう、蕗、せり、みつば。変哲もない寄せ鍋を彩る春の香り達。 さっと火を通す度に鼻孔から春を感じる幸せ。美しい日本の季節に、彩りを添えてくれる、うまい、うまい鍋たち。

■■■ 家庭でもほんとにおいしい、鍋料理アレコレ ■■■

中学の修学旅行で京都に行った。泊まったホテル「大富」で食べた鍋のうまさは今でも舌に焼き付いている。 あまりのうまさに仲居さんに尋ねると、「へえ、大富鍋いいますねん。」「ピーナッツをあたってだしに入れるんどす。」と来たから驚き。 何度か嗜好錯誤して行き着いたあの時の感動。ピーナッツバターを使って再現した「京都で出会ったピーナッツ鍋」 ピーナッツバターは「スキッピー」に限る。「クリーミータイプ」ならそのまま。 「チャンクタイプ」なら味噌漉しで固形のピーナッツを除いて溶かし混む。 騙されたと思ってお試しを。よくある、甘いタイプのピーナッツバターは使わないで下さい。 また、独特の風味が野菜の滋味を消すので、ごまペーストでは代用できません。


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だしは、水だしのこんぶだしに「ほんだし」「瀬戸のほんじお」濃口・薄口醤油で味付け。 冬の野菜の滋味を活かす為、白菜の芯、ねぎの青いところ等を入れてくたくた煮る。 骨付きの鶏肉等や干し椎茸は予め入れてうま味を引き出す。 だし野菜を捨て、改めて白菜の固いところを入れて透き通るまで煮る。 だしにピーナッツバターを溶かし込んだら味が一変。なんといも言えない味になる。 その他の具は、豆腐、京菜を必須にして、どんなものでもよく合う。 餅や生麩は最高。最後はうどんを入れても絶品。


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シンプルな具、シンプルなだしの組み合わせが、絶叫する程うまい鍋になる。 そんな鍋が一家に一つはあるだろう。豚肉のスライスとほうれん草だけをポン酢で食べる「常夜鍋」もその一つ。 鶏とタコのつくね団子をうどんのだしで食べるシンプル鍋も絶品だ。「鶏タコ鍋」のうまさにいつも脱帽。


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だしは、「ほんだし」、「瀬戸のほんじお」、みりん、薄口醤油。 関西風のうどんだしを作って欲しい。(味の素kkの関西風うどんおでんだし「どんでん」ならその他の調味料は不要) 鶏肉のミンチに、細かく刻んだタコと紅生姜を入れ、少量のしょうが汁、たっぷりの水で混ぜる。 スプーンで丸めて次々と鍋の中へ。煮えるのが待ちきれない程のうまさだから、喧嘩にならないようご用心。 薬味代わりにせりやみつばをたっぷり入れたら、また最高。最後の雑炊が、これまた最高。


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牡蠣、ベーコン、豚バラ、生鮭、キャベツ、これを楽しむにこんな鍋は如何。 こってりそうだが、こってりではない。身体に優しい、優しいお鍋。 「牛乳チーズ鍋」

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「コンソメ」などで味付けしただしで、キャベツを煮る。 牛乳をだしの1/3程度入れて鍋大会開始。ベーコン、豚バラ、牡蠣等々。 バッチ毎に溶けるチーズをふりかけて。 最後は生米を入れて目の前でリゾットが楽しい。



旦那の居場所、今回は「冬の鍋」のおいしさについてでした。 だしのうま味を存分に吸った白菜や生麩。口に入れるとぴゅっと飛び出す熱々のねぎの汁。湯気と共に飛び込む春菊の香り。歯応えを残して楽しむキノコ達。 鍋の良さは、自分の好きな素材を自分の好きな加熱加減で食べられること。 出来上がりを考えて投入する順番を決め、好みの薬味で食べる。だから不思議と一鍋に一人、鍋奉行が誕生する。

今日は鍋!と決めた時から、鍋に味をつけるか、水炊きにして手元のゆずポン酢で食べるか、迷いに迷う。もちろん、鍋の種類でお酒の種類や飲み方も変わるから、どんな酒で楽しもうか、またまた、迷いに迷う。 最後にだしに投入するのは、ご飯か麺か、これまた、迷いに迷う。 鍋の翌朝、土鍋に残り汁等あろうものなら、朝からまた一献しながら、一鍋始めてしまうというから、 ホント「冬の鍋」の魅力とは不思議なものです。
(2001年3月 copywright hiroharu motohashi)

旦那の居場所第26回 やきものの里小石原「マルダイ窯」礼賛

女将のダンナは「惣菜管理士」というあまり知られていない資格を持っている、 ただのサラリーマン。とにかく大の料理好き!・・で、このお店を間借りさせて あげることにしました。 名づけて「ダンナの居場所・・居酒屋のおやじを夢見て」。 これからも色々な素材を取り上げていきますのでお立ち寄りください。*この記事は1998~2005年に書かれています

かれこれ、6年程前になろうか、レンタカーを借りて、やきものの里、小石原を訪ねた。 秋月から抜ける悪路で峠を越えると、そこは、鄙びた里であった。 一人旅の気侭さで、ほとんどすべての窯を歩き、ここぞという窯で大ぶりの片口鉢と 味わいのある汁次を求める。○印に大という銘。今も懐かしいマル大窯との出会いだった。

歯切れの良い、声の大きい奥さんに、福岡空港までの近道を尋ねると、 「今からうちの人が、市内に個展の片付けにいくからついて行く?」と、 溌剌と笑った。「お言葉に甘えて」出発までぶらぶらと時を過ごした。 無口だが人の良さそうな旦那さん、明るく気さくな奥さん。 広い敷地に、大きな仕事場、旧家を移してきたという重厚な茅葺きの母屋。 私道に沿って小川が流れ、聞こえるのは遠くに犬の鳴く声、唐臼の音。 初めて訪れたのに、立ち去り難い郷愁の念にかられた居心地の窯、癒しの里。

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● ● ● ●うまいものに囲まれて器を焼く ● ● ● ●

それから、縁あって、幾度も伺うようになったマル大窯。その度に、「お茶請けに」とか 「この器にはこんな料理が」などと、奥さんの料理を口にする機会に恵まれる。 「裏の畑でとれたもの」が「ここの窯で焼いた器」に盛られて、信じられない程うまい。 時間があれば、奥さんは裏の畑に手を入れ、義母から料理の技を乞う。 やっとコンニャクが思い通りに作れたとか、今年は鹿が蕎麦の実を全部食べてしまったとか、 楽しい話題は尽きることがない。 地の素材、地の土。そこから、こんなにも豊かで、崇高な恵みを得ることができる。 ああ、豊かかな、小石原の土。

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● ● ● ●我が家のふるさと宅配便 ● ● ● ●

マル大窯の奥さんは、女将の仕入れに必ずと言っていいほど、心暖まるメッセージと 新鮮な野菜を入れてくれる。 その多くは、「ふーん、はて、スーパーで売っていない野菜、どう調理したものか?」である。 水いもの茎、むかご、芋茎(ずいき)、隼人瓜にそうめん瓜…・。 女将と大騒ぎ、白旗を上げてTELする時もあるが。こういう頭の使い方も楽しい。 小石原で食べた記憶を頼りに、見よう見まねで作っても、何故かうまい。
東京出身の奥さん、「この人とは何故か話があった。とても楽しくて誠実な人」だから、太田成喜さんを選び、 「大家族に囲まれて、最愛の人達といつも一緒に、生活そのものを楽しみたかった」 から、小石原の里に嫁いだ。 今日も、小石原からの箱を開けると豊かな自然、細やかな情けの匂いがする、我が家のふるさと宅配便。 ああ、美しいかな、小石原の里。

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■■■ ・・小石原の野菜で作る、料理アレコレ・・ ■■■
玉ねぎの食感が最高の隠し味。鮮やかな赤に染まった芋茎。 煎り胡麻を擦って、ぱらっとかける。 贅沢な、贅沢な「芋茎の甘酢漬け」。大田さんに教わった逸品。

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鍋にごく少量の油を敷き、玉ねぎのスライスをシャキッと炒める。 芋茎は皮を剥き水煮にしておく。 さっと火にかけた酒1、みりん1に、淡口醤油1、酢1を混ぜタレとする。 芋茎、玉ねぎを混ぜ、タレに漬けておくと、翌日には見事なピンクに変わる。 (

 


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そうめん瓜の食べ方は、いろいろ。 でも、炒めても、またうまい。 せんぎりにして、半生かな?という感じにしゃきっと炒める。 「そうめん瓜のカリカリ炒め」

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輪切りにしたそうめん瓜を湯がき、水に取りほぐす。 (まるでそうめんの様に繊維状になる) 水気を切り、ごま油でさっと炒め、好みの味で。 シンプルな塩味もうまい。 この他、そうめん瓜は、千切りの胡瓜、ハムなどと一緒に和風ドレッシング で和えてもうまいし、マヨネーズでスパゲティーサラダ風でも楽しめる。 ほぐさず、サイコロ状にして砂糖や蜂蜜のシロップ漬けにしても、楽しいデザートになる。


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水いもの茎はしゃきしゃきとした食感が身上。 パリンとしたスライスに酢味噌をさっとかけて。 水いもの茎が酢味噌に合うのは、有田は龍門ダムの川魚料理の名店 「龍水亭」で学んだ食べ方。 酒に良し、肴に良し、 こってりとした料理のつまにも良しの、「水いもの酢味噌シャキシャキ」。
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水芋の茎は、水に張り、皮を指で縦に剥く。 断面が映える様にスライス。 酢味噌をかけて、シャキシャキのうちに食べる。


旦那の居場所、今回は、やきものの里小石原「マル大窯のうまいもの」についてでした。 手塩にかけて育てた野菜に、必ず「いりこ」や「かしわ」等、動物性のうま味を かくし味に使う技が絶妙の味を醸し出す。 小石原の里の郷土料理「おばいけの炊き合わせ」は、 新じゃが、筍、にんじん、里芋などを「おばいけ」と一緒に炊き合わせた絶品。 保存の利く海の幸と、裏山で採れた山の幸との融合。 今の時代にあって、「質素」「素朴」であるが故の「豊かさ」を感じるこの里の料理。

女将の仕入れで訪ねる商談のはずが、いつしか座敷に上がり込み、 一杯ひっかけながら長居をしてしまう。まるで、故郷の我が家でくつろぐ様な 錯覚に囚われつつ、ついつい食も酒も過ごしてしまうというから、 ほんと、やきものの里「マル大窯のうまいもの」の魅力とは不思議なものです。
(2000年11月 copywright hiroharu motohashi)

旦那の居場所第23回 玉葱礼賛

女将のダンナは「惣菜管理士」というあまり知られていない資格を持っている、 ただのサラリーマン。とにかく大の料理好き!・・で、このお店を間借りさせて あげることにしました。 名づけて「ダンナの居場所・・居酒屋のおやじを夢見て」。 これからも色々な素材を取り上げていきますのでお立ち寄りください。*この記事は1998~2005年に書かれています


ある日、突然、居酒屋から「オニオンスライス」なるメニューが消えた。 学生時代、過酷な夏の稽古の後に、風呂に入って、居酒屋直行。 「冷奴」「オニオンスライス」「冷やしトマト」だけを注文して、 生ビールを何杯か飲んだ。どこの店にも必ずあった「オニオンスライス」 たまねぎが辛すぎないこと、でも、独特の硫化アリルの風味と辛味が残っていること。 そして、よく水が切れていること、削り節が載っていること。 たったこれだけだが、意外と難しい料理。 ビールの冷たさに縮みあがった胃袋に、 辛味の刺激が堪らない・・ああ、なつかしのオニスラちゃんは今どこに!

● ● ● ● 玉葱のうまさの秘密 ● ● ● ●

外皮はビニールのようなパリンパリンの黄金色、切ると涙がポロポロ。 口に入れれば、刺激的に辛い。普通、考えれば、「これは毒があるかな?」とも思われる程の野菜だ。 昔の人はよくこれを食べる気になったな。しかし、ピラミッド造りに駆り出された 人々が食べていたというから、人類との付き合いは古い。ビタミンC、糖質を多く含み、 ビタミンB1の吸収を助ける。新陳代謝も活発にするというから、超ハードな肉体疲労時には 最適だったのかも知れない。

この辛い野菜、不思議なもので、加熱することで、甘味が出てくる。 この甘味成分は、プロピルメルカプタンといい、砂糖の50~70倍の甘味を持つ。 加熱により、独特のコクと風味も増して、これが肉類には良く合う。ソースの味を支える力強さは抜群だ。 加熱の具合や切り方によって、しんにゃりやしゃきしゃき、辛味、甘味や苦味、千変万化な味のアクセントが 楽しめる。 シャキ感を残す程度の炒め具合もよし、鼈甲色にまで炒めてまた良い。 ドライカレーの上にカリッと揚げたオニオンが載っていたら、もう気分は豪華客船。 煮てよし、炒めてよし、揚げてよし、生でよし。ああ、うまいかな、たまねぎ。


● ● ● ●永遠の名脇役 たまねぎ ● ● ● ●

たまねぎが主役の料理は少ない。「オニオンスライス」「オニオンリング」「オニオングラタンスープ」くらいかな。 それでいて、様々な料理の材料として顔を出す。カレーをはじめソースやシチューにはかかせない。 黄金色になるまで炒めたやつが、ソースの風味を決定付ける。 ハンバーグのつなぎにも最高だ。肉のうま味を抱留め、ジューシー感を演出し、さらにそれに気品を添える。 コロッケ、オムレツ、牛丼、肉じゃが、酢豚、どれもメインの素材ではないが、 たまねぎが入らなけりゃ、勝負にならない。 生でも、みじん切りを煮込み料理に散らして薬味にしたり、ドレッシングにたっぷり入れれば、 ナチュラルな甘辛さと風味を楽しめる。 自らは決して出張らず、しかして、いないと誰もが困る。たまねぎ君よ、あんたはカッコウ良すぎます。

■■■ 家庭でもほんとにおいしい、玉葱料理アレコレ ■■■
たまねぎのてんぷら、オニオンリングは大好物だ。 たまねぎではないけど、山東ねぎをフライにしたやつをゴバッとかけるラーメン店もあったなあ。 正統派ドライカレーにも、フライドオニオンは欠かせない。 たまねぎと油の相性は抜群、サクサクの食感とともに、えも言われん甘さを楽しみたい。 「たまねぎチップス」


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たまねぎは7mm程度の輪切り。切ったら30分程度ざるに並べておく。 片栗粉を両面に薄くまぶしてフライパンに並べ、サラダ油をひたひた程度に入れて揚げ焼きにする。じっくり加熱し、最後は温度を高めに。 油は新しいものを使いたい。臭いのない、さらさらの「ピュアライトオイル」で揚げると、たまねぎ本来の風味もよく、たくさん食べてもムカムカしない。 ラーメンや冷中華の具にしても最高。崩れたやつは、カレーにかけたり、お好み焼 に入れてもうまい。


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たまねぎの辛味、風味が大好きだから、新たまねぎには物足りなさを感じる。 水分が多いから揚げ物にも適さないし、じっくり炒めても、複雑な風味は望めない。でも、このシーズン、やはり、新たまねぎを見ると、つい手を伸ばし、サラダにしたり、 酢の物にしたり、アレコレ結局食べてしまう。 「新たまねぎの丸焼き」、新たまの究極の料理法?である。


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ぐるり一枚だけ、皮をむき、表面にオリーブ油を塗って、オーブンへ。 焼けたら、まわりの皮を一枚剥いて、中身をむしゃむしゃ食べる。 味付けは不要、でも、試してみたいお方は、ご随意にどうぞ。 塩、醤油、バター等等、もちろん、うまい。


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たまねぎは、最高の漬物の素材でもある。お酢との相性が良いから、 あっさりとした浅漬けがとても良い。小たまねぎ(ぺコロス)のピクルスも当然うまい。 というわけで、夏にピッタリの「たまねぎの桜漬け」 きれいなピンク色の正体は、好みにお任せします。

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たまねぎは繊維を断ち切る様にスライス。(炒めに使う時は繊維に沿う) 塩で軽くもんで、漬け汁に漬け、冷蔵庫で3時間程度から食べられる。 基本の漬け汁 酢、赤ワイン、レモン汁、砂糖 好みで赤ワインの替わりに、梅干、梅酢、からし明太子、新しょうがを漬けた酢 など きれいな桜色に仕上げる素材を試してみると面白い。辛味が強い場合は、オニオンスライスの要領で水にさらしてから使うと良い。 たまねぎや大根等、辛味のばらつきが大きい素材は、「切ったら、まず味見」を習慣付けたい。



 


旦那の居場所、今回は「玉葱(たまねぎ)」のおいしさについてでした。 女将の得意料理は、和え物。火力を使わず、切って、和えるだけの料理が多い。 その一つに、抜群にうまい「タコのマリネ」がある。材料はたまねぎ、ゆでタコ、レモン。 たまねぎは繊維に直角にスライスして水にさらし水気をよく切り、薄く切ったタコを混ぜる。 レモン、塩(隠し味にはグレープシードオイルや醤油、青しそ等)で味付け、しばらく味が馴染むまで、冷蔵庫で冷やす。 主役はタコなのだが、実は本当に うまいのはたまねぎなのだ。だから、たこの代わりに、甘えびでも、生ハムでも、 スモークサーモンでも、何でもいける! ビールでも、ワインでも、何にでも合う夏らしい逸品。

女将の料理の簡単さにも舌を巻くが、 食べる度に、うまい!と絶叫させられる、たまねぎの爽やかさに、 梅雨も吹き飛ぶ程、感動してしまうというから、ほんと玉葱(たまねぎ)の魅力とは不思議なものです。
(2000年6月 copywright hiroharu motohashi)

旦那の居場所第22回 牛タン礼賛

女将のダンナは「惣菜管理士」というあまり知られていない資格を持っている、 ただのサラリーマン。とにかく大の料理好き!・・で、このお店を間借りさせて あげることにしました。 名づけて「ダンナの居場所・・居酒屋のおやじを夢見て」。 これからも色々な素材を取り上げていきますのでお立ち寄りください。*この記事は1998~2005年に書かれています


結婚前に女将と牧場に遊びに行ったことがある。大きな牛が近ずいて来て、 ペロリと女将の手を舐めた。その瞬間、思わず女将は「まあ、おいしそう。」と歓声を上げた。


● ● ● ● 牛タンのうまさの秘密 ● ● ● ●

牛は、内臓から尾っぽに至るまで、ほとんどすべて食べられる。 中でも、タンは至高の素材と言える。繊維が緻密で、うまさが凝縮。 堪えられない深い味わいがある。脂肪は多いがよく締まり、実に歯応えが良い。噛み締めると濃厚な肉の 風味がふわっと浮き立つ。先端は固く風味が単調だが、つけ根に行くほど霜降りになり、柔らかい。 断面をカットすると、CTスキャンの大脳の写真みたいな模様があって、赤っぽいところと白っぽいところの コントラストが食欲をそそる。中央の芯タンだけを口に放り込めば、極楽直行。

生のスライスをさっと焼いて、歯切れの良さを楽しむも良し。厚切りを煮込んで舌の上でとろけさせても良い。 皮だけを茹でて、酢醤油で食べるに至っては人生観を変える凄さがある 醤油との相性も良いし、濃厚なブラウン系のソースやバターにも合う。 むろん、塩味だけでステーキ、スモークしても、本来のうま味を楽しめる。


● ● ● ●タン塩騒動 ● ● ● ●

焼肉屋では、塩タンを食べる時がもっとも楽しい。発注からして迷ってしまう。 必ず、メニューには「タン塩」と「上タン塩」があるからだ。どのくらい品質に差があるのだろうか? 先端か根元の違いか、はたまた、国産か輸入の違いか、いやいや厚みが違うのか。 始めていく焼肉屋では、もう気になって気になって仕方がない。近頃はそれに加えて、「極上タン塩」やら 「ねぎタン塩」やら、更に選択肢が増えている。

運ばれて来ると、厚みをチェック。それから、レモンだ。小皿にレモンを絞り、鼻歌交じりに塩と一味でタレを拵える。 「焼く前のタンにレモンをかける派」や「焼いた後、野菜を巻いてレモンをかける派」もいるので、初めて網を囲む相手には嗜好を確認。 必要に応じて、レモンを追加しなければならない。

さあ、そして、いよいよ焼き。眼の前には、ビールとキムチだけだから、はやる心を抑えられない。 でも待って!網なり鉄板が充分温まっていることが大切だ。肉の表面が加熱で固まるまでの時間の 短かさが、ジューシーな美味さの源だからだ。しかも、反対側は殆ど焼かない。 今しかないというタイミングを見計らってレモンダレへ。このタレは決して、たっぷりつけるのではなく、粗熱を取る程度のつけ方が望ましい。 次の瞬間、幸福が口の中いっぱいに広がって・・・。ああ、本当に、うまいかな牛タン。

■■■家庭でもほんとにおいしい、牛タンアレコレ ■■■
日本のラーメンの中に入っている焼豚(チャーシュウ)は、本当は煮豚。 これと同じ製法で作る煮タンならぬ「焼タン(チャータン)」は抜群にうまい。

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タンは1~2時間、丸ごと茹でる。(皮付きのものは茹でてから皮をむく) 茹で上げのアツアツをタレに漬ける。 タレ=醤油、酒、みりん、しょうが、にんにく、鷹の爪を加熱したもの。 タレには、好みで、甜麺醤、刻み豆鼓、柚子などを入れても良い。 昼に漬けて、時々ひっくり返せば、夜には食べ頃。ビニール袋の中で漬け、冷蔵庫に入れておけば、場所をとらない。


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厚切りのタンなら、ステーキだあ! でも、もっとラジカルに、固まりのまま、塩釜でくるみ、オーブンへ。 塩を割りながら、ワイワイ食べる、 へたなサーロインより100倍うまい「塩釜のローストタン」

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掃除をした、タンの固まりを、玉子の白味で湿らせた塩でコーティング。 200度程度のオーブンで20~30分ロースト。 カチンカチンの塩釜を割り、タンは1~2cmに厚めにカット。 中は程よいピンク、マスタードやわさびを添えてもうまい。 かぶりつけば、タン独特のシャキッと歯が通る食感がGood。

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本当においしいタンシチューに出会った時の幸福は、ちょっと形容しがたいものがある。 ポイントは柔らかさの中にも、肉のうま味を残すことだ。 味が抜けきってしまっては、どんなに柔らかくても、もうタンシチューじゃない。 でも、時間もなければ、腕もない。なるべくはしょって、おいしいタンシチューを作りたい。 そこで考えた「手抜きのタンシチュー」

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「手抜きのタンシチュー」 タンは2cm以上の厚さが欲しい。深めのフライパンで両面、焼色をつけ、うま味を封印。 そのフライパンで、たまねぎ、にんじんをよく炒め、水を入れて煮込み、市販のハヤシライスのルーを入れる。タンは、耐熱皿に入れ、蒸し器で蒸す。 30~50分蒸し(好みで)、耐熱皿にたまった肉汁ごと、別鍋のソースに合流。

ソースは、本来プロが気の遠くなる様な手間と時間をかけるが、オリジナルのものを作ってお楽しみ下さい。 発想のヒントは以下の通り。 肉に負けない深い味わいを作るものは、赤ワイン、白ワイン、バルサミコ酢、醤油、コンソメ等コクを受け持つものは、バター、生クリーム フレッシュな香りはトマト、きのこ類、 アクセントは香草、スパイス リエゾン(とろみつけ)には、小麦粉でしょうが、時間がないので、トロミなしでも良いでしょう。

もっと、はしょるなら、市販のビーフシチューのルーや粉末のデミソース。 (缶詰めのデミソース、ケチャップやウスターソースはあまり合うとは思えない。)当家では、子供がいるので、ハヤシライスのルーで作っちゃう。




タン料理に挑戦する場合は、できれば一本丸ごと買って来るのをお勧めしたい。 肉屋さんに頼む方法より、業務用食材を扱うC&C(キャッシュ&キャリー)がお手頃。 初心者は、表面の皮をきれいに取ってあるものを買うこと。解凍には半日はかかります。 まな板の上に投げ出した牛さんの舌を見ていると、どうして料理しようか、創造力を 刺激する何かを感じてしまいます。手馴れてくれば、皮付きの奴を仕入れるのもまた一興。 皮を、どうやって取り除こうか、 しばし、呆然とすることでしょう。知識もなければ、経験もない、腕もない。 そこが料理の面白いところといえましょう。 ステーキやシチューや焼タンになれなかった皮や先っぽを集めて、「もつ煮込み」の 要領でアクをとりながら、醤油と酒で煮込む。七味をかけながら食べてみる。 「う~ん、こいつの美味さはただ事ではないなあ」と思わず舌を巻いてしまうというから ホント、牛タンの魅力とは不思議なものです。
(2000年5月 copywright hiroharu motohashi)

旦那の居場所第21回 若布礼賛

女将のダンナは「惣菜管理士」というあまり知られていない資格を持っている、 ただのサラリーマン。とにかく大の料理好き!・・で、このお店を間借りさせて あげることにしました。 名づけて「ダンナの居場所・・居酒屋のおやじを夢見て」。 これからも色々な素材を取り上げていきますのでお立ち寄りください。*この記事は1998~2005年に書かれています

大学時代、運動部の合宿所に住んでいた。合宿ともなれば40人の団体生活。 朝食を作り、起床の号令をかけるのは一年生の仕事。眠い目をこすりながらまず味噌汁の鍋に火をつける。 ある朝の起床前、食事当番の同期が、「もっちゃん、はさみ貸して」と取りに来た。 何かおかしい!見にいくと、大量の砂糖を味噌汁に投入して首をひねっている。 その上、菜ばしで鍋から、長~いわかめをつまみあげ、はさみでチョキチョキ切り出した。 「もしかして、塩蔵のわかめ切らないで入れたわけ?」「うん、しかも塩を洗うなんて知らなかった!」 運動部は我慢の連続。先輩からの不条理な仕打ちに黙って耐えることも多いが、 上級生になっても、毎年一年生の作るスゴイ食事を文句も言わずに食べることも学ぶ。


● ● ● ● 若布のうまさの秘密 ● ● ● ●

若布の真髄は、歯応えにある。中でも、赤褐色の生若布にさっと湯通しした若布の食感は抜群だ。 魚売り場で、刺身若布なんて書いてあるのを見つけると堪らず買ってきて山葵醤油で「シャキカリ」 食べる。鳴門の灰干若布もこれに近い。黒々としたやつを口に放り込む瞬間は涙ものだ。 また、葉の中央に走る茎や中肋のところは、コリカリして乙な感じだし、めかぶの「ネバトロ」は止められない。 「ネバトロ」というより、「ズルズル」食べる。これがうまい。

一方、残った味噌汁の中でゆっくりふやけた若布の食感もまた良い。 「ネントロリ」という感じで舌の上を滑りながら溶けていく。邪道かも知れないが、こういう若布もまたうまい。 「シャキカリ」を楽しむためには、過度の加熱は禁物だが、熱が入って緑色に変わる瞬間が、 若布のうまさと香りを感じるには最も良い。しかし、若布の味とはどう表現したら良いのであろう。 微妙なうま味と甘味、微かな苦味か、他の似た食べ物に例えるだけの特徴はない。 藻類全般に言えることだが、慎ましく上品なうまさとでも言えようか。それだけに出汁や醤油との相性が良いのだろう。

● ● ● ● 若布の料理 ● ● ● ●

若布といえば味噌汁、うどん、スープなど汁物の利用が圧倒的に多いだろう。 「明日の味噌汁は何にしよう。」こんな時、「わかめ」と「豆腐」があれば、ぐっすり眠れる。 焼肉屋といえば、何故か「わかめスープ」だが、これも絶品だ。乾燥わかめの一番おいしい料理は、この「わかめスープ 」ではないか。 サラダもうまい。和風ドレッシングが、ここまでメジャーになれた最大の功績者は「わかめ」だろう。 今流行の甘めの和風味とも合うし、ゆずや紫蘇の香りとすんなり馴染む。ごま油とはおいしさの相乗効果を 発揮する。わかめといえば、昔から「酢の物」だが、この料理、最近の日本の食文化の中では、 「和風サラダ」に名前を変えてしまったのかも知れない。

■■■ 家庭でもほんとにおいしい、若布アレコレ ■■■
灰干若布はうまいが、手間がかかる。真っ黒な灰が洗っても洗ってもたまる。 しかし、この苦労と交換に、本当のうまさが、手に入る。 また、葉の中央の中肋は取り除いて別に使う手間も大切。 中肋とは風にはためく万国旗を結ぶロープみたいなやつで、広げて見るとすぐわかる。 食感が命の若布料理において、異なる食感の部位は別々に楽しみたい。 これは塩蔵若布にも共通するポイント。この中肋だけを酢の物で食べる乙な一品。 「若布のコリカリ酢の物」


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中肋は適当な長さに切り、蛇腹に包丁を入れ、砂糖・塩でもんだ胡瓜、さっと湯通ししたえのき茸と合わせる。 酢、砂糖、ほんの微量の薄口醤油で「コリカリ」食べる。 ごま油と塩だけで和えてもうまい。


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若布、鶏卵、出汁の組み合わせも抜群においしい。 わかめのたっぷり入ったふっくらオムレツや入り卵もうまい。 茶碗蒸のような柔らかくて滑らかな「若布の玉子とじ」。 酢の物やサラダも良いが、煮物の素材としての若布の上手さを実感できる。


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たっぷりの若布と季節の筍、筍は穂先や姫皮のやわらかいところが良い。 茶碗蒸風によく溶いた玉子を入れて混ぜ、蓋をして、ごくごく弱火でふっくら蒸す。 鍋に湯を張り、ステンレスのボールに材料を入れて、弱火でゆっくり湯煎しても良い。 じっくりと玉子に火が入るほどに、ふっくらと柔らかく、香り高く仕上がる。


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初夏からの季節に最高の味噌汁を一品。 素材は一切加熱しない冷たい味噌汁。 しゃきっと眼が覚め、食欲が蘇る「わかめとトマトの冷たい味噌汁」 加熱しない味噌には、たんぱく質を分解する働きが強いから、焼肉にビールの後でも爽やか。 もちろん、こっそり、ご飯にかけて食べてもうまい。


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出汁を作って冷蔵庫で冷ましておく。時間がない時は、鍋で湯を沸かし、 火を止めて「ほんだしかつおだし」を入れ、別の容器に移して氷を投入。 この冷たい出汁で味噌を溶く。味噌は好みのもので。(が、信州白味噌が良いと思う。) 冷たいまま飲むので、味噌漉しかステンの細かいザルで、必ず味噌は濾す。 これに、わかめとザク切りのトマトを入れる。薬味には茗荷の小口切りが合う。




旦那の居場所、今回は「若布(わかめ)」のおいしさについてでした。 先日、女将の仕入で波佐見から伊万里に抜けた折り、呼子まで足を伸ばした。 漁港では、おばさんが採ったばかりのわかめをたくさん籠に入れている。 根をちょんと切り落とし、芽かぶをポンと切り分ける。その度に潮の香りがぷんとして、 赤褐色の若布がお日様に透き通る。「咲良、あれがわかめだよ」 娘にはわからない様子だったが、長閑で豊かな海の光景を肌で感じてくれたらそれで良い。 娘が大好きな「芽かぶとろろ」はわかめの茎にできる、ひだひだの胞子葉。 この中に出来た胞子が海中を漂い、やがて岩などに辿り着いて発芽する。 ゆらゆらと海底に漂いながら、何を考えながら成長するのだろうか。 深部に届く太陽の光に葉を広げ、かぼそい緑色光で光合成を営む若布。 なんとも可愛い奴が日本の近海にいてくれたものだ。 この若布、北海道以南の殆どの日本沿岸に産し、日本人は古くから食用としてきました。 しかも、ヨード、カルシウム、鉄に富む海の恵み。それでいて、何故か、主張を抑えた 慎ましやかな、主役になれない素材。 でも、こんなに長いこと、日本人に愛され親しまれる若布、ほんと若布の魅力とは不思議なものです。
(00年4月 copywright hiroharu motohashi)

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