旦那の居場所第23回 玉葱礼賛

女将のダンナは「惣菜管理士」というあまり知られていない資格を持っている、 ただのサラリーマン。とにかく大の料理好き!・・で、このお店を間借りさせて あげることにしました。 名づけて「ダンナの居場所・・居酒屋のおやじを夢見て」。 これからも色々な素材を取り上げていきますのでお立ち寄りください。*この記事は1998~2005年に書かれています


ある日、突然、居酒屋から「オニオンスライス」なるメニューが消えた。 学生時代、過酷な夏の稽古の後に、風呂に入って、居酒屋直行。 「冷奴」「オニオンスライス」「冷やしトマト」だけを注文して、 生ビールを何杯か飲んだ。どこの店にも必ずあった「オニオンスライス」 たまねぎが辛すぎないこと、でも、独特の硫化アリルの風味と辛味が残っていること。 そして、よく水が切れていること、削り節が載っていること。 たったこれだけだが、意外と難しい料理。 ビールの冷たさに縮みあがった胃袋に、 辛味の刺激が堪らない・・ああ、なつかしのオニスラちゃんは今どこに!

● ● ● ● 玉葱のうまさの秘密 ● ● ● ●

外皮はビニールのようなパリンパリンの黄金色、切ると涙がポロポロ。 口に入れれば、刺激的に辛い。普通、考えれば、「これは毒があるかな?」とも思われる程の野菜だ。 昔の人はよくこれを食べる気になったな。しかし、ピラミッド造りに駆り出された 人々が食べていたというから、人類との付き合いは古い。ビタミンC、糖質を多く含み、 ビタミンB1の吸収を助ける。新陳代謝も活発にするというから、超ハードな肉体疲労時には 最適だったのかも知れない。

この辛い野菜、不思議なもので、加熱することで、甘味が出てくる。 この甘味成分は、プロピルメルカプタンといい、砂糖の50~70倍の甘味を持つ。 加熱により、独特のコクと風味も増して、これが肉類には良く合う。ソースの味を支える力強さは抜群だ。 加熱の具合や切り方によって、しんにゃりやしゃきしゃき、辛味、甘味や苦味、千変万化な味のアクセントが 楽しめる。 シャキ感を残す程度の炒め具合もよし、鼈甲色にまで炒めてまた良い。 ドライカレーの上にカリッと揚げたオニオンが載っていたら、もう気分は豪華客船。 煮てよし、炒めてよし、揚げてよし、生でよし。ああ、うまいかな、たまねぎ。


● ● ● ●永遠の名脇役 たまねぎ ● ● ● ●

たまねぎが主役の料理は少ない。「オニオンスライス」「オニオンリング」「オニオングラタンスープ」くらいかな。 それでいて、様々な料理の材料として顔を出す。カレーをはじめソースやシチューにはかかせない。 黄金色になるまで炒めたやつが、ソースの風味を決定付ける。 ハンバーグのつなぎにも最高だ。肉のうま味を抱留め、ジューシー感を演出し、さらにそれに気品を添える。 コロッケ、オムレツ、牛丼、肉じゃが、酢豚、どれもメインの素材ではないが、 たまねぎが入らなけりゃ、勝負にならない。 生でも、みじん切りを煮込み料理に散らして薬味にしたり、ドレッシングにたっぷり入れれば、 ナチュラルな甘辛さと風味を楽しめる。 自らは決して出張らず、しかして、いないと誰もが困る。たまねぎ君よ、あんたはカッコウ良すぎます。

■■■ 家庭でもほんとにおいしい、玉葱料理アレコレ ■■■
たまねぎのてんぷら、オニオンリングは大好物だ。 たまねぎではないけど、山東ねぎをフライにしたやつをゴバッとかけるラーメン店もあったなあ。 正統派ドライカレーにも、フライドオニオンは欠かせない。 たまねぎと油の相性は抜群、サクサクの食感とともに、えも言われん甘さを楽しみたい。 「たまねぎチップス」


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たまねぎは7mm程度の輪切り。切ったら30分程度ざるに並べておく。 片栗粉を両面に薄くまぶしてフライパンに並べ、サラダ油をひたひた程度に入れて揚げ焼きにする。じっくり加熱し、最後は温度を高めに。 油は新しいものを使いたい。臭いのない、さらさらの「ピュアライトオイル」で揚げると、たまねぎ本来の風味もよく、たくさん食べてもムカムカしない。 ラーメンや冷中華の具にしても最高。崩れたやつは、カレーにかけたり、お好み焼 に入れてもうまい。


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たまねぎの辛味、風味が大好きだから、新たまねぎには物足りなさを感じる。 水分が多いから揚げ物にも適さないし、じっくり炒めても、複雑な風味は望めない。でも、このシーズン、やはり、新たまねぎを見ると、つい手を伸ばし、サラダにしたり、 酢の物にしたり、アレコレ結局食べてしまう。 「新たまねぎの丸焼き」、新たまの究極の料理法?である。


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ぐるり一枚だけ、皮をむき、表面にオリーブ油を塗って、オーブンへ。 焼けたら、まわりの皮を一枚剥いて、中身をむしゃむしゃ食べる。 味付けは不要、でも、試してみたいお方は、ご随意にどうぞ。 塩、醤油、バター等等、もちろん、うまい。


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たまねぎは、最高の漬物の素材でもある。お酢との相性が良いから、 あっさりとした浅漬けがとても良い。小たまねぎ(ぺコロス)のピクルスも当然うまい。 というわけで、夏にピッタリの「たまねぎの桜漬け」 きれいなピンク色の正体は、好みにお任せします。

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たまねぎは繊維を断ち切る様にスライス。(炒めに使う時は繊維に沿う) 塩で軽くもんで、漬け汁に漬け、冷蔵庫で3時間程度から食べられる。 基本の漬け汁 酢、赤ワイン、レモン汁、砂糖 好みで赤ワインの替わりに、梅干、梅酢、からし明太子、新しょうがを漬けた酢 など きれいな桜色に仕上げる素材を試してみると面白い。辛味が強い場合は、オニオンスライスの要領で水にさらしてから使うと良い。 たまねぎや大根等、辛味のばらつきが大きい素材は、「切ったら、まず味見」を習慣付けたい。



 


旦那の居場所、今回は「玉葱(たまねぎ)」のおいしさについてでした。 女将の得意料理は、和え物。火力を使わず、切って、和えるだけの料理が多い。 その一つに、抜群にうまい「タコのマリネ」がある。材料はたまねぎ、ゆでタコ、レモン。 たまねぎは繊維に直角にスライスして水にさらし水気をよく切り、薄く切ったタコを混ぜる。 レモン、塩(隠し味にはグレープシードオイルや醤油、青しそ等)で味付け、しばらく味が馴染むまで、冷蔵庫で冷やす。 主役はタコなのだが、実は本当に うまいのはたまねぎなのだ。だから、たこの代わりに、甘えびでも、生ハムでも、 スモークサーモンでも、何でもいける! ビールでも、ワインでも、何にでも合う夏らしい逸品。

女将の料理の簡単さにも舌を巻くが、 食べる度に、うまい!と絶叫させられる、たまねぎの爽やかさに、 梅雨も吹き飛ぶ程、感動してしまうというから、ほんと玉葱(たまねぎ)の魅力とは不思議なものです。
(2000年6月 copywright hiroharu motohashi)

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