旦那の居場所第13回 ステ-キ礼賛

女将のダンナは「惣菜管理士」というあまり知られていない資格を持っている、 ただのサラリーマン。とにかく大の料理好き!・・で、このお店を間借りさせて あげることにしました。 名づけて「ダンナの居場所・・居酒屋のおやじを夢見て」。 これからも色々な素材を取り上げていきますのでお立ち寄りください。*この記事は1998~2005年に書かれています

「今日はビフテキにでもするか!」子供の頃は、父親の一声に狂喜乱舞したものだった。 家でナイフとフォークを使う御馳走は、この「ビフテキ」以外には登場しない。 それにしても、何故か「ビフテキ」といった。牛肉に対する特別な価値観が当時の日本にはあったのだ。

外食では、高価で手の出ない料理。お買い得の肉をそれでも奮発して買ってきて、大騒ぎした。 なんでも兼用の家庭のフライパンで焼くのは至難の技。「ステーキはレアに限る」なんて 言いながら、父親はまだ中が冷たい肉を美味そうに食べていた。

● ● ● ● 「ステーキ美味いかな」 ● ● ● ●

世界で一番美味いステーキハウスをご存知か?ニューヨークはブルックリンの ピーター・ルーガー・ステーキハウスを置いて他にない。 ここのTボーンを食べたいだけで、命からがらブルックリン橋を越えたのは、3年前の春。 期待をはるかに絶するTボーンステーキのうまさに脱帽。 これはどうやって焼いたのか?オーブンは何度か?どのくらい大きいオーブンがあるのか? たどたどしい英語で質問攻めにされて、これにはベテランの 接客のプロも相当閉口していた。 USビーフは硬い、臭いが気になる、ジューシー感がない。

今までの固定観念は吹き飛んだ。 表面はカリッとクリスピー、中はジューシー、噛むほどに肉の旨味が口中に広がる。 分厚く白い器にたまった肉汁をつけながら、ヒレとサーロインをTボーンから交互に切りとって 口に運ぶ。まさに至腹?のひととき。この国の人間はこんな美味いものをいつから食っていたのか?

● ● ● ● 「ステーキのこと」 ● ● ● ●

思えばステーキという料理。極めてラジカルで原始的。肉を切り分けて焼くだけ、 料理の原点だ。家庭では肉をサーブするのは、男性の仕事。狩猟時代の名残は 今でも西洋のマナーの中に残っている。 さて、調理法。鉄板で焼く。網で焼く。または、オーブンなどでローストする。 熱源は?電気、ガス、炭火。 程よく脂を抜いて!そんなことしたらもったいない! ソースは?塩・胡椒だけ?それも片面のみ? 思えばステーキという料理。極めて繊細で、奥が深い。肉を切り分けて焼くだけ、 料理の芸術だ。 良質の蛋白質と同時にビタミンA、B1、B2の補給には最適、古人の知恵か偶然か?

★★ 家庭でもほんとにおいしい、スーテキアレコレ ★★

この道具との出会いは、自分で焼くステーキの味に革命をモタラシタ。 表面はクリスピーに、中はジューシーに。 安価になったとは言え、霜降りの柔らかそうな一枚。侮れる値段ではない。 失敗は許されないから、今夜もこれを使う。 「クリスピー・カバーで焼くクリスピーステーキ」

◆「クリスピー・カバーで焼くクリスピーステーキ」◆
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肉は好みの部位を。早めに冷蔵庫から出し室温に。 焼く直前に塩・胡椒。良く熱したフライパンに脂を引き、肉を入れすかさず クリスピーカバー。ひっくり返しは一度で決めたい。時々、焼色を見て、今しかない というタイミングでひっくり返し、またカバー。 カバーの最上部が空いているので、ここから小量の香りのための酒を注ぐ。 酒はお好みで。ウイスキー、ブランデー、白ワイン。我が家ではこの順に 登場する頻度が高い。もちろん焼き上がった時にはテーブルはすべて 準備が整っていなくてはならない。


特売の安いステーキ肉。国産、輸入を問わない。 サシの入っていない、硬い肉でも、 少しの工夫で、抜群にうまくなる。
「野菜たっぷり煮込みステーキ」


◆「野菜たっぷり煮込みステーキ」◆
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肉はこれでもかといううくらい筋を切る。 1枚につき1/4個程度のたまねぎをすり卸し、マリネしておく。 野菜は、もやし、コーン、いんげん、えのきなど。 あらかじめ、軽く油で炒めるか、茹でておく。 タレは、赤ワイン、醤油、日本酒、みりん。 フライパンに油を敷きにんにく、肉を入れ両面をやや短めに焼く。 フライパンのすき間に野菜を入れ、全体にタレをかけ、フタをして、2~3分煮込む感じで。


六岡山から車で北に2時間、勝山という町がある。 酒造りや林業、木材加工の盛んな美しい町。 旭川畔には、あの高瀬舟の発着場の跡が残る。 この町に蔵元「御前酒(ごぜんしゅ)」の経営する、和食処「西蔵」がある。 酒の貯蔵庫を改築したなんとも素敵なお店。 銀鱈の焼き物や美作牛のステーキ丼など、ここの料理はなんでもおいしい。 なによりは、食事の前にまず、「御前酒」の吟醸が出る。 ここで食べた「ステーキ丼」の味はDNAが記憶した。


◆「シンプル イズ ベスト のステーキ丼」 ◆
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長ネギ、刻みのり、タレを準備する。 タレは好みだが、酒1、みりん1を煮切り、醤油1を足して弱火で加熱。 味が馴染んだら少し寝かせる。時間が経つ程に良し。 肉の厚さは、出来れば1cm欲しい。フライパンとクリスピーカバーで 焼いて、最後に少量、上記のタレとバターの風味付け。 あつあつご飯に、のり、一口大に切った焼き立てのステーキ。 長ネギは、斜め小口に切り、水にさらし、水分を多少残してレンジで40秒。 タレは加減しながら、まんべんなく回しかけ、ネギを天盛りに。 息継ぎをせず、一気に食べちゃう方がうまい。 酒1、みりん1、醤油1のタレは、万能調味料。ステーキソースにとどまらず、 和洋中、肉魚野菜、なんでも使えちゃう、強い味方。



旦那の居場所、今回は「ステーキ」のおいしさについてでした。 西牛東豚、「神戸」に限らず、西では、どの街にも、抜群にうまい 「ステーキハウス」が無数に存在する。 岡山の「佐向吉」では、つけあわせの野菜を自家製で賄う。 家族でこの農園を訪ね、ハーブをかじりながら、収穫の楽しさを味わった。 広島の「みき」も、常に研究を怠らない店。「瀬戸のほんじお」をご愛顧頂いている。 どちらもご夫婦だけのこじんまりした店だが、料理への情熱と食材へのこだわりは凄まじい。

人類と「牛肉」とのつきあいは、かれこれ5000年くらい。 ピラミッドには人間が牛肉を食べる絵が残っているというからスゴイ。 日本では、一般に牛肉食が普及したのが、明治以降。 「牛肉」とのつきあいは、まだ始まったばかりだ。まだまだ、うまい食べ方があるに違いない。 それにしても「ステーキ」、あの歯切れの良い、弾力のある、繊維を断ち切る音と、肉汁がほとばしる音。もう、、こんな風に考えていると、早朝だろうが、深夜だろうが、無性に食べたくなって しまうというから、ホント「ステーキ」の魅力とは不思議なものです。

(99年7月 copywright hiroharu motohashi)
99/7月

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