女将の食卓blog

旦那の居場所第10回 「旅にしあれば旅の味」礼賛

女将のダンナは「惣菜管理士」というあまり知られていない資格を持っている、 ただのサラリーマン。とにかく大の料理好き!・・で、このお店を間借りさせて あげることにしました。 名づけて「ダンナの居場所・・居酒屋のおやじを夢見て」。 これからも色々な素材を取り上げていきますのでお立ち寄りください。*この記事は1998~2005年に書かれています


有田・唐津編 女将の仕入れに同道する半年振りの九州への旅、旦那の目的は「うまいもの」。 3月の3連休は、土、日、月。既に、いつの昼はどこで、この日の夜はここで、と当たりはつけてある。 もちろん、「定休日」なんてことのない様、事前確認済み。 行き当たりばったり、嗅覚だけで「うまいもの」を探すのも旅の楽しさだが、 ここにいったらこの店に必ず行く、というのも、またいいものだと思う。



◆◆◆ 上海飯店 ◆◆◆

最初の出会いは1年前。風邪気味で食欲のない娘、咲良に中華ならと思って飛び込んだ店だ。 この時、咲良は食欲不振を返上、皿うどんと中華丼を馬鹿食いして、一気に回復した。

有田の国道沿いにあるこの店は、いつ訪れても、地元のお客さんでいっぱいだ。 チャンポン、皿ウドン、炒飯。ベーシックメニューがとにかくうまい。安い。そして 量がある。1人前を2人で食べるお客さんもかなりいる。お店も心得ていて、 料理の数だけ、人数分の取り皿を出してくれる。 客席はほとんどが、畳にこたつ。なんとも、家庭的な雰囲気だ。 うまさの秘密は、あっさりとした味付け。そして、具がたくさん。野菜の食感がまた絶妙。

ここの厨房は物凄い。なにしろ、一人前の量が多いから、特大の北京鍋でガンガン作る。 どのメニューにもたっぷり入る野菜は、一口大で山の様に積まれている。 「中華丼のご飯を!」「二番にスープとサラダ!」鍋を振りながらも、旦那さんの指示が飛ぶ。 今回は、焼き餃子に、2人前ずつもあろうかという特製チャンポン、特製皿ウドンをペロリ。おにぎり3つ(咲良の分も)を つけてくれた。腹十二分目まで食べるが、何故かモタレナイ。



◆◆◆ 龍水亭の鯉の洗い ◆◆◆

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ここは、昨年仕入れの時に、窯元さんから教えて頂いた。龍門ダムの湖畔、最も奥にある川魚料理の老舗。 大正10年開業、当代で3代目、脈々と受け継がれた素朴で本物の味が楽しめる。 今回、初日の夕食は「龍水亭」と定め、数日前から予約をしてある。 店の入り口付近に湧く「龍門の岩清水」で口を清めると、もうヨダレが出てきてしまうパブロフの犬状態。 とにかく、鯉がうまい。「鯉とはこんなにも、うまいものだったのか!」まさに初鯉の味である。

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鯉を龍門の名水で泳がせ、味が充実し、臭みが抜けたところを見計らって、調理をするからだろうか。 洗いにすれば、テキメンに、この鯉のうまさがわかる。臭みがまったく無く、かりりんと身が締まり、それでいて、しっとりした舌触り。 これをじっくり醸造した自家製の味噌で作った、とびきりうまい酢味噌で食うから、これはもう 気絶しそうになる味わいだ。

次にこれまた、自家製の柚子こしょうを酢味噌にちらっと混ぜると、 今度は一層、鯉の鮮烈さが浮き立つ。 洗いに向く海の魚も多いが、しつこすぎず飽きない分だけ、鯉は、一段と格調が高い。 洗いもうまいが、鯉こく、鯉の唐揚げに柚子あんをかけたもの(=これはおすすめ)、鯉のうまさを 思い知る。

これに、やまめの塩焼き、うなぎの蒲焼きがついたコースで、5000円弱だというので また「びっくり」である。



◆◆◆ 嬉野の観光ビジネスホテル別館山水 ◆◆◆

嬉野の隠れ宿 今回、初日の宿は、嬉野の観光ビジネスホテル別館山水。 「龍水亭」でゆっくり夕食を摂ってからチェックイン。 このビジネスホテル、築も経ており、過分の設備、サービスはない。 が、しかし、隣接する名旅館「山水」の大岩風呂が無料で使える。 嬉野の湯は、お肌しっとりの美人湯だ。 ツイン9200円に朝食一人1000円の格安、明朗会計なり。 朝食も、温泉玉子や湯豆腐、焼き魚にサラダ、明太子までついて1000円とは。


 

◆◆◆ 有田の紀文鮨 ◆◆◆

新婚旅行で初めて暖簾をくぐった思い出の店。とにかく、アオリイカのうまさにびっくり仰天した。 九州産の、くどくない、小ぶりで甘く、キメの細かいウニにも舌鼓みを打った。 ネタの大きさもシャリの握り加減も絶妙のイナセな江戸前風。粋な握りが楽しめる。 しかも、握りやつまみは、染め付け、青磁、白磁、赤絵・・の名品で供される。 今回も2日目の昼に立ち寄った。旦那さんの変わらぬ笑顔にホットする。 女将は午前中、意中の窯元と商談成立で上機嫌。 器の町・有田では、遠来の商談客をもてなすニーズか、寿司屋の激戦区。レベルが高い。


◆◆◆ 唐津に洋々閣あり ◆◆◆

2度目の洋々閣。最初は新婚旅行。あの時は改装中で休館だったが、どうしてもと 泊めて頂いた。泊り客は、当方一組だけだった。 今回は、全室満室。人気の高さが窺い知れる。 さて、ここは、名物「ざる豆腐」で知れた、料理が自慢の唐津の老舗。中里隆氏の器で供されることでも名高い。

お味は、一皿一皿に細心の仕事が施してあって感心する。湯布院あたりの宿で受けている、 素材感のある、野趣に富んだ料理とは対局にある料理。堅苦しさもあるが、変わらぬ伝統の重みを感じてしまう。

味付けは全般的に、昆布のうま味が強く、かつおの風味などは敢えて抑えて素材の風味を慈しむ。 満足度の高さでは朝食だ。ざる豆腐、ちりめん山椒、昆布の佃煮、卯の花、鯖の塩焼き・・。 これで、麦粥を何度もお替わりする。 最後に香の物と煎茶で締めくくる。九州のお茶はどこで飲んでも本当にうまいが、隆太窯の湯呑みで 頂く「洋々閣」の朝のお茶はまた格別である。

 
旦那の居場所、今回は「旅にしあれば旅の味」有田・唐津のおいしさについてでした。 何故、旅先で食べる物はこんなにおいしいのでしょうか? 旅にはずむ心も一因ですが、水、空気、温度、湿度。その土地の食べ物は その土地の風土に根差しているからではないでしょうか? そして、やはり、地元で取れる素材への、地元の人々の愛着と慈しみ。 鮮度や食べ方の工夫に感心する前に、愛情を感じる訳であります。 広島から片道4時間の道のりでも、すぐにまた行きたくなるというから、 本当に有田・唐津の魅力とは、不思議なものです。 (99年3月 copywright hiroharu motohashi)


■ 有田 中華料理 上海飯店 0955-42-3901

■ 竜門峡 川魚料理 龍水亭 0955-46-2155

■ 嬉野 観光ビジネスホテル 別館山水 0954-42-1150

■ 有田 紀文鮨 0955-42-2535

■ 唐津 洋々閣 0955-72-7181

旦那の居場所第9回 大根」礼賛

この正月、東京に帰った折り、久々に「三浦大根」を堪能した。 東京でもなかなか見かけなくなったが、 年の瀬ということもあってか、1本580円もする三浦が飛ぶように 売れていた。早速1cm程度の輪切りして、生のままかじりつく。 まだ、年を越してからの甘みはなかったが、みずみずしさ、歯切れの 良さ、まさしく冬の大根のうまさに感動した。

冬の大根はこうして生のままかじるのが一番うまい。子供の頃から 簡単に手に入った間食の1つだ。 ちょっとユーモラスな形の「三浦」、長く太く、特に中央部から下に向けて太くふくらむ。 この形ゆえに、収穫も一苦労で、生産は激減した。一方いわゆる「青首」はうなぎ昇り。 とにかく「三浦」は「青首」に比べると肉質のきめの細かさや、甘過ぎぬ甘みの複雑さ、 みずみすしい歯ごたえにおいて一段上だ。三浦(練馬)、長野の辛み、聖護院、桜島、 金沢。大根の品種、産地を選択するという贅沢、一度は味わってみたい贅沢だと思う。


● ● ● ● 「大根うまさの秘密」 ● ● ● ●

大 根ほど切り方、おろし方、加熱の仕方で表情の変わる野菜はない。 また、品種、収穫時期、一本の中でも真ん中、しっぽ、首でも劇的に風味が異なる。 生や漬物の時にはやはりあのしゃきっとした食感だ。長屋の花見ではないが、あの「パリパリ」に尽きる。 清々しい風味と食感。漬物の素材としては、最も好き嫌いを問わない全日本選手といえる。

他方、加熱をすると表情はがらっと変わる。一緒に炊いた主役のうま味をすべて抱き留める。 何故かココロ落ち着き、身体暖まる持ち味が良い。 おろしにしても、細かくおろす、鬼おろしでざくっとおろす、首のあまいところ、しっぽの辛いところ。 この素材、生半可では付き合えない。


● ● ● ● 「大根の持つ郷愁」 ● ● ● ●

「さんま、さんま、さんま苦いか、しょつぱいか」大根といえば、佐藤春夫のこの詩を思い出す。 青きすだちの汁を大根おろしに絞りかけ、さんまのはらわたと一緒に口に放りこむ。 日本人に生まれて良かったと思う瞬間だ。 大根には、焼き魚の焦げの作用を中和するオキシターゼが含まれる。 うまいばかりか、理に適った食べ方だ。冬はとかく、ビタミンが欠乏しがちだが、ビタミンCが抜群に多い。正月で弱った胃腸に「すずしろ」(大根)の入ったお粥はありがたい。消化を助けるジアスターゼの効果だ。本当に冬にはなくてはならない貴重な野菜、今冬もありがとう、大根!

★★ホントにおいしい・・「大根」にあうあの料理★★

壷井栄の小説に「大根の葉」という短編があった様に記憶する。小学生の時に読んだから、30年近く前の記憶。間違っていたらゴメンナサイ。父親を亡くした母1人子2人の家族が、貧乏故に大根の葉っぱを食べながら、それでも明るく助け合い生きていく話。
そうです。大根の葉っぱはうまいのです。鉄や、ビタミンB1、カルシウムは 根より葉にあるわけで、「大根の葉の醤油炒め」でご飯が何杯でも食べられます。  

◆◆◆ 「大根の葉の醤油炒め」 ◆◆◆
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大根の葉(正確には葉と茎)は大きく微塵切り。ゴマ油でよく炒め、さっと酒をふり、少量の砂糖かみりん、醤油、「ほんだし」で味付け。冷蔵庫で保存し、味が馴染むほどにうまい。油揚げやセロリの葉などと一緒に炒めても抜群。だから葉っぱは絶対捨ててはいけない。




煮るか、漬けるか、おろすか。大根の食べ方はこの3通りに代表される。でも、炒めても、またうまい。
せんぎりにして、半生かな?という感じにしゃきっと炒める。「大根のせんぎり炒め」


◆◆◆ 「大根のせんぎり炒め」 ◆◆◆
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大根はせんぎり。さっと砂糖、塩をふり、余分な水分を抜く。醤油、酒、唐辛子で和え、ゴマ油などでさっと炒める。簡単だけど清々しいつまみができる。我が家では、唐辛子のかわりに、めちゃめちゃ辛い「唐辛子を 泡盛で漬けた汁」*を使う。

*泡盛に好きなだけ赤唐辛子を入れ1ヶ月位から使える。炒め物などにさっとかけるとそれは堪らなくうまい。



大根のかつらむきが始めて出来た時は嬉しかった。 でもその皮、もったいない。皮の食感は面白い。噛むと皮の方と中の方の噛んだ様子が微妙に違う。味のしみ込み方や、色のつき方まで違う。つるん、しにゃ、と美味しい、「大根の皮の炒め煮」


◆◆◆ 「大根の皮の炒め煮」 ◆◆◆
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「大根の皮の炒め煮」 大根の皮はかつらむきの状態から、長細く5mmから1cm程度に切る。油でしんなりするまで、よく炒め、ひたひたの水、酒、少量の砂糖かみりんで煮て醤油、ほんだしで味付け。最後は強火で汁気を飛ばすように炒め煮る。にんじんの皮など他に捨てるような野菜をいれても良い。こ、これは何者?という 程にうまい。だから皮は絶対捨ててはいけない。


旦那の居場所、今回は「大根(だいこん)」のおいしさについてでした。
やはり大根といえば、各地の漬物。一夜漬け、ぬか漬け、たくあん、守口漬け、いぶりがっこ、さくら漬け、なた漬け、なます、べったら漬け等など。こちとら江戸っ子だから、時々無性にべったらが食べたくなります。
daikon01.jpg写真は「手作りの変わり漬け3種」、にんにく醤油漬け、ハチミツ老酒漬け、自家製べったら(酒粕で)

古くから大根は、無病息災につながる食べ物、病気の予防になるという認識があった様で、流石に昔の人は偉い!と思います。
そうそう、申し遅れましたが、やはり大根といえば、風呂吹き。たいそうシンプルな味付けでも、あつあつをつつきながら熱燗で一杯やれば、 危うく腰を抜かしてしまう位、「うまい!」というからほんと大根の魅力とは不思議なものです。

(99年2月 copywright Hiroharu Motohashi)

旦那の居場所第8回 山芋礼賛

女将のダンナは「惣菜管理士」というあまり知られていない資格を持っている、 ただのサラリーマン。とにかく大の料理好き!・・で、このお店を間借りさせて あげることにしました。 名づけて「ダンナの居場所・・居酒屋のおやじを夢見て」。 これからも色々な素材を取り上げていきますのでお立ち寄りください。*この記事は1998~2005年に書かれています

和食店でスタミナ定食なるメニューがある場合、十中八九、山芋が使われていると思って良い。 「スタミナ」をイメージする和の山の幸はこれをおいて他に無い。山芋の故郷、医食同源の国、 中国では、 古くから精のつく食べ物とされ「山薬」とも呼ばれた。我が国でも自然薯(ジネンジョ)などは、 「山うなぎ」なる異名もあるほど。 栽培の歴史も長く、日本人とは切っても切れない間柄という、今回は「山芋」礼賛といきたい。


● ● ● ● 「とろろの響き」 ● ● ● ●

「麦飯とろろで十何杯」、とろろを熱いごはんにかければ、たちどころに何杯でも、胃袋に吸い 込まれていく。 小学生の頃から、大のとろろ好き。晩ごはん作りのお手伝いに「空気を含ませる様に、よーく かき混ぜて」と言われて、 ダシで伸ばしたものだ。はじめて「とろろ」を意識したのは、こうして自分でかきまぜた後で、 手が無精にかゆくなった時だったと思う。

「とろろ」を扱う時は、絶対にお湯でなく、水。さもないとますますかゆくなる。そうも母親 に教えられた。 旦那の生家では、長い円柱形のいもより、いちょうの形をしたものが良いとされていた。
女将のダンナは「惣菜管理士」というあまり知られていない資格を持っている、 ただのサラリーマン。とにかく大の料理好き!・・で、このお店を間借りさせて あげることにしました。 名づけて「ダンナの居場所・・居酒屋のおやじを夢見て」。 これからも色々な素材を取り上げていきますのでお立ち寄りください。*この記事は1998~2005年に書かれています


● ● ● ● 「山芋うまさの秘密」 ● ● ● ●

旦那の弟(33歳)は、大学卒業と同時に、建設関係の会社に入社し、以来東北地方を総なめに している。帰省の際は必ず東京では手にはらないものを携えてやってくる。ある時は「自然薯」。
ひげ根はガス火で取り、擂り鉢に擦り付けておろしていくが、その粘りの強さといったら、想像 を絶する。味も絶品。何時間もかかって掘り起こすだけのことはある貴重品だ。

東京にいる頃は、イチョウの葉の形をした「やまといも(銀杏薯とも)」を良く食べたが 、岡山・広島ではみかけないので 調べたら、やはり関東が産地らしい。長芋よりずっとどっしりとした旨みがあり、おろしても ネットリしている。一方、関西では「つくねいも」、「大和薯」などと呼ばれる団子型のイモがうまい。 丹波や伊勢のものが有名だ。 岡山ではじめてみたのが「むかご」。イモのつるの葉腋にできるもので、「むかごごはん」 にして食べたりする。

山芋のうまさは、まずあの食感。おろしてねっとり。刻んでしゃきしゃき。そして野趣に富 んだ味わい。 だしや醤油、味噌との相性も良く、なめらかに包み込んで渾然一体となってしまう。海苔で 巻いて揚げてもいい。 そうそう「とろろそば」なる料理もあったなあ。味噌汁や吸い物、茶碗蒸もいい。まぐろや いかなど淡白な刺身と相性抜群。ああ、うまいかな、山芋。

★★ホントにおいしい・・「山芋」にあうあの料理 ★★

長芋は肉質が粗いので、すりおろすと水っぽい。短冊、せんぎりなどで歯ごたえを楽しんだ方がうまい。 しゃきしゃきとした食感は、他の食材には見当たらない鮮烈さがある。 いろいろなものに合わせてみると、もう病みつきになる。「長いものたたき」

◆◆◆ 「長いものたたき」◆◆◆
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長芋は薄く切ってから、包丁で細かく叩いて、小さな粒を残す。 無理してせんぎりにするより、この方がずっと簡単。 おくら、納豆、梅干し、漬物の類など、同様に包丁で叩く。 だしで割った醤油をかけ、かきまぜてズルズル食べるとうまい。 お好みで、もみのり、山葵などをあしらうと、これがまたうまい。 イカやまぐろの賽の目をいれてもうまいが、なるべく素朴にいきたい。


広島に越して半年。少しずつうまい店を発掘しつつある。可部線緑井駅のすぐ近くにある時鮨(ときずし)もその一つ。その店のメニューに「とろろ焼」 がある。 ねとっとした食感とお焦げの香ばしさが同時に味わえる逸品。オリジナルは陶板で焼いてそのまま出てくるのだが家庭ではフライパンでもOK。


◆◆◆ 「とろろ焼」 ◆◆◆
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長芋はなめらかにおろして、だしで伸ばす。フライパンにサラダ油をひき、バターを少量。 イモを流し込みフタをしてじっくり焼く。ひっくり返す必要はない。 底が焦げないよう火加減には気を配る。表面にまで火が通れば、もみのりを散らして出来上がり。 陶板でなくても、小振りのフライパン、パエリヤ鍋、ガラスの耐熱パンなどなら、そのまま食卓に出してふーふースプーンでつつくのが楽しい。 大和芋など種類を変えれば、また違った食感が楽しめる。




長芋をごろっと煮転がしたものも懐かしい。さといもにはない清々しい食感が魅力だ。 きめは粗いがしゃきっとしたさわやかな歯ごたえ。 あっさりとうす味に炊いた「長芋のふろふき」。柚子の香りを添えて熱燗でいくのもいい。


◆◆◆ 「長芋のふろふき」◆◆◆
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長芋は大きく輪切り、フライパンで軽く表面を焼き、だしで炊くだけ。 だしは、塩と「ハイミー」のみ。醤油は入れない方がうまいと思う。 味を染み込ませるために鍋で一度さます。食べる直前にもう一度温めて、 皿に盛り、少しだしをかけ、柚子の香りを合わせる。



旦那の居場所、今回は「山芋(ヤマイモ)」のおいしさについてでした。
「牛たんの塩焼きに麦とろごはん」「本マグロの山かけ」、メインの食材に決して負けない、不思議な 存在感を持っている「山芋」。そうかと思えば、蕎麦のつなぎや、お好み焼きの隠し味など、完全に控えめな脇役に回ることもあります。そういえば、鹿児島みやげ、「かるかん」の原料でもありました。やっぱり日本人とのつきあいの長さをひしひしと感じてしまいます。

元来、麦とろは、東海道の旅篭の看板料理として、そのうまさが全国に広がったものだそうで、ここの味付けは味噌がベースの様です。 旅の疲れを取る食事としては最高だったのではないでしょうか。
とろろ汁にポコンと卵を割り入れた時のあのドキドキ、家族で食べるときなど、誰かがどばっと一気にめし椀にいれてはしまわないかと、もう気になって仕方がないというから、ほんと「山芋」の魅力とは不思議なものです。

98/12月

旦那の居場所第7回 豚バラ礼賛

女将のダンナは「惣菜管理士」というあまり知られていない資格を持っている、 ただのサラリーマン。とにかく大の料理好き!・・で、このお店を間借りさせて あげることにしました。 名づけて「ダンナの居場所・・居酒屋のおやじを夢見て」。 これからも色々な素材を取り上げていきますのでお立ち寄りください。*この記事は1998~2005年に書かれています


三田のラーメン「二郎」のチャーシューはバラ肉だったな。この店ではチャーシューとは呼ばずに 「ブタ」と言った。この店のご主人、「二郎のおやじ」こと山田拓巳氏には、高校時代から世話 になっている。酒の好きな人で、誘えばまず来る。つまみを差し入れて!と頼めば、この豚を 2~3本持ってやってくる。

麻薬のようなうまさ。ラーメンにのせてもいいが、ビールにもよ くあった。酔っても必ず年季の入ったタコイトをくるくると巻いてポケットに入れて帰るのが 印象的だった。ラーメン屋のチャーシュー(実は煮豚だが)、作る方にもこだわりがあるし、 食べる方にも好みがある。バラ肉、、もも肉など素材もまちまち。焼豚については、別途 に礼賛するとして、今回は「バラ肉」を少しつまみ食いしたい。


● ● ● ● 「豚バラとの出会い」 ● ● ● ●

子供の頃、中華料理を食べに行くと、決まって一番心待ちにしていたもの。それは、豚の三枚肉 の煮付けだった。あのやわらかさ、後でわかったが「五香粉」の独特の香気、濃厚な醤油ベース のソース。きっとこれは近所の肉屋さんでは売っていない、超高級なお肉に違いないと信じて いた。(我が生家では、お肉屋さんにおつかいに行くとき、豚肉といえば決まって「豚コマ」 なるものを買っていたので・・) 高校生になって、豚の角煮をどこかの居酒屋ではじめて食べたとき、これは和風仕立てのあの 料理に違いないと一人合点した。分厚い塊の豚のバラ肉、100g90円から、銘柄豚でも 180円くらいまでか。ああ、安くてうまい。うれしいかな、豚バラ・・。


● ● ● ● 「豚バラうまさの秘密」 ● ● ● ●

赤 身と脂肪が層をなしている。そのせいか風味とコクに富み、塊のままかぶりつけば、絶妙な 食感がある。きめは粗いが硬くはなく、ジューシーさがたまらない。豚肉の香りを一番感じる ところだ。元来肉の香りとか、風味なるものは、脂肪によるところが大きいと思う。鶏の皮で 作った鶏油(ジーユ)などはその好例だ。 この脂肪が適度に、しかも交互に入る豚バラ肉はだからおいしい。香しい脂肪のアロマ、 好ましい汗の臭いとでもいうか。まさにベーコンや、煮込みなどには打ってつけの素材。 もちろん、ヒレは言うに及ばず、ももやロースよりもカロリーは高い。 スライスを求める時も、ももやロースでなく、ついバラスライスを買ってしまう。その理由は、 まず値段が安い。 どの加熱方法でも硬くならない、他の材料に適度な脂(風味)と旨み(コク)を与えてくれる。 だから、野菜炒め、お好み焼、ソース焼きそば、・・やっぱり、バラ肉でなければならぬ。


★★ホントにおいしい・・「豚バラ」にあうあの料理★★

我が家での冬の定番料理。疲れが抜けて、身体が芯から温まる。仕込みは簡単。あとはじっくり煮込むだけの「あっさり和風ポトフ」

◆◆◆「あっさり和風ポトフ」◆◆◆
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たまねぎ、にんじん、大根、じゃがいもは大きめに切る。 豚バラの塊は、熱湯でゆで、アクがでたら、水洗い。 今度は、水から、野菜、かたまり豚バラを入れてただ煮ていくだけ。 じゃがいもは崩れやすいのであとから。ローリエを入れて臭み抜き。 バラ肉が柔らかくなり、深い味のスープになれば出来上がり。 調味は最後に、塩、胡椒のみ。理由はわからないが、バラ肉は最初から 一口大に切るより、食べる前にとりだし 切り分けた方がおいしい。


沖縄の豚肉文化、鹿児島の豚肉文化、豚肉の食べ方は九州以西の文化でもある。豚の角煮の原型は、長崎の卓袱料理、さらに溯れば、中国は北宋時代の東坡肉(トンポウロウ)に通じる。六本木の中国料理の名店、新北海園の飲茶、豚肉の蒸し物は抜群のうまさだ。
スペアリブあり、豚足あり。バラの塊を使い家庭で再現して楽しんでいる。 「豚バラの醤油煮込み」


◆◆◆ 「豚バラの醤油煮込み」 ◆◆◆
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豚バラは、フォークでぶすぶす刺して味を染み込みやすくする。醤油、酒、みりん、しょうが、 ねぎ、ハチミツの合わせ調味料につける。 フライパンでこんがり焼く。合わせ調味料とともに、深皿に入れて、 蒸し器でじっくり柔らかくする。 好みで「五香粉」または「八角」などで独特の香り付け。 豚バラは、中国語で「五花肉」「軟五花」。よく使われる素材である。



赤坂四河飯店で鍋を振る中国料理のエキスパートに回鍋肉を教えて頂いたことがある。意外だが、豚バラの塊は茹でて余分な脂を抜いてしまう。「回鍋」とは本来一度煮た材料を更に鍋で調理すること。こうすることで、味噌の味がのり、野菜との旨みがからまって、バランスの良い完璧な回鍋肉になる。プロの仕事、工夫、技に脱帽。 「回鍋肉(ホイコーロー)」


◆◆◆ 「回鍋肉(ホイコーロー)」 ◆◆◆
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バラ肉は塊のまま、中まで完全に火が通るまで茹でて薄くスライス。 キャベツ、にら、長ねぎはざくぎり。好みでピーマンも。 鍋に湯をわかし、キャベツを湯通し、ざるにあける。 中華鍋をカンカンに熱し、肉を香ばしく炒め、弱火にして、にんにく、しょうが 豆板醤、甜麺醤を入れ、さらに香りを出す。再び強火にして、ねぎ、キャベツ、にらを入れて 醤油、酒で味をととのえ出来上がり。 使いやすさ、色のよさから豆板醤、甜麺醤は味の素のCOOK DOブランドがおすすめです。 時間がない!、面倒!の節はCOOK DO「回鍋肉用」だけでも、もちろんGood!


旦那の居場所、今回は「豚バラ」のおいしさについてでした。当然うまいので、お好み焼きや、焼きそば、野菜炒め、常夜鍋に沖縄料理の面々などは割愛しましたのでご勘弁。 また、スペアリブ(骨付きバラ肉、排骨)も、これまた、あまりにうまいので、いつの日か 別途礼賛したい。

旦那の実家では、牛、鶏に比べ圧倒的に豚肉が食卓にのぼることが多く、豚肉好き、経済的な都合も相俟って、肉じゃがどころか、スキヤキまで、豚バラ。本来、スキヤキは牛肉料理だと悟ったのは中学生になってからのことでした。
中国では紀元前2000年以前から豚が飼育されていたというから驚きです。 ビタミンB1に富み、にんにくと一緒に食べると効率的に摂取できるようです。

豚バラブロックなるパックがスーパーに並んでいると、どう料理するかあてもないのに、女将の目を盗んでそっとカゴに忍ばせてしまうというから、豚バラの魅力とはなんとも不思議なものです。

98/11月

旦那の居場所第6回 キャベツ礼賛

女将のダンナは「惣菜管理士」というあまり知られていない資格を持っている、 ただのサラリーマン。とにかく大の料理好き!・・で、このお店を間借りさせて あげることにしました。 名づけて「ダンナの居場所・・居酒屋のおやじを夢見て」。 これからも色々な素材を取り上げていきますのでお立ち寄りください。*この記事は1998~2005年に書かれています


小学生の頃、土曜日は給食がなかったので、必ず家で昼飯を食べた。商売で忙しい旦那の生家では、手をかけた食事は期待できない。焼き飯、牛丼、おじや、煮込みうどん・・ その時、必ず野菜は、大皿山盛りのきゃべつの千切りだった。銘々皿にガポッととって、 醤油、ソース、マヨネーズあたりの調味料や、おしんこ、納豆などのトッピングを各自の好みでぶっかけて食べる。 先日、久々に生家に泊まった時に、朝飯から、このキャベツの千切りの大皿に遭遇した。 カリカリベーコンをちらし、ドレッシングをかけるところには食卓の進化を感じたが、懐かしい原型をとどめた一品だった。(親父65才は相変わらずそれにソースとポテマヨをかけていた。)


● ● ● ● 「キャベツとの出会い」 ● ● ● ●

腹 が減ってたまらない小学生時代、自分で料理して、胃袋を満たすことを覚えた時分、一番馴染みの 深かった野菜はキャベツだったと思う。まず第一に、一年中冷蔵庫にはいつもある。第二に刻みやすい 第三に当時自分の中で大流行していた即席ラーメンとの相性の良さ。「ちび六」というラーメンをご存知か、これにキャベツのざく切りも一緒に入れて煮込んで食った。
はじめて、中華鍋を振ったのも小学生、はじめての中華は野菜炒めだった。キャベツだけが、バランスを欠いて、不自然に多く入ってしまう。葉の2~3枚でもけっこうボリュームのあることを知らずに使った。


● ● ● ● 「キャベツのうまさの秘密」 ● ● ● ●

キ ャベツの偉大さは、どの料理方法でもうまい、ということにつきる。生食、炒め、煮込み、茹で、漬物・・。 ほのかな苦みと甘みをあわせ持つ。生ではあの青臭さが苦手という方もいらっしゃるが、 噛みしめた時の甘みはたまらない。加熱しても良し、キャベツのない野菜炒めなど想像もつかない。 油や醤油との相性もいいし、煮ればしっくりと味がしみる。パリパリの食感を残した浅漬けもたまらないが、 臭いほどに発酵した糠漬けの古漬けもいい。ゴマやかつぶしをのせれば、ごはんを何杯でも食える。 ザワークラウト、ロールキャベツ、回鍋肉(オリジンはキャベツでないが)、コンソメスープの浮き身に、軽く煮たキェベツの 千切りも抜群、味噌汁の具でもうまい。洋の東西、料理法を問わない有り難い素材。 お好み焼きについては敢えて多くを語るまい。千切りかざく切りか。関西風か、広島風か、関東風か。議論が果てぬ。


★★★ホントにおいしい・・「キャベツ」にあうあの料理★★★


女将の得意料理。切って和えるだけの定番の中から。簡単で、さっぱりと無理なくたくさん食べれる。ひじきのこんな食べ方もあったのかと 驚いてしまう、「キャベツとひじきのサラダ」(女将はコールスローサラダにも目がない。)

◆◆◆「キャベツとひじきのサラダ」◆◆◆

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キャベツは千切り。 ひじきは水戻し、何度か水をかえ、よく洗って、水気を切る。 キャベツ、ひじきをあわせ、市販のノンオイル ドレッシングをかける。 で出来上がり。



とんかつのチェーン店にドレッシングを提案した時の話。キャベツの千切りにとんかつソースをかけるか、
ドレッシングをかけるか、30歳代では半々、40歳以上はほぼソース、20歳代は間違いなくドレッシングだと痛感した。一食当たりでもっともキャベツを食べられるのは、「とんかつ」かも。というわけで、豚肉の栄養バランスの良さもあり、今や「とんかつ」はヘルシーメニュー。 余談だが、とんかつのキャベツにあうのは、オニオン入りの醤油ドレ、やや甘いかつお風味の和風ドレ梅やしその風味の和風ドレ、少し冷たい白のフレンチあたりがよいと思う。主役の「とんかつ」はさておき、とにかくキャベツの千切りをうまく食べるには、あれこれ試すのが一番。そこで、昔からの定番の味付けも含めて「トッピング自由のキャベツの千切り」

◆◆◆ 「トッピング自由のキャベツの千切り」 ◆◆◆
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キャベツは大量に千切り、大皿に盛る。 調味料は、しょうゆ、ポン酢しょうゆ、ソース、ドレッシングは和風やフレンチ、マヨネーズ、からし、 ゴマ油に、オリーブ油などなど。 トッピングはカリカリベーコン、削りぶし、ゴマ、納豆、紅しょうが、刻みのり、玉ねぎのみじん切り クレソン、みょうが、オクラ、たか菜、ザーサイなどなど。銘々皿にとり、おかわりの度にアレコレとアレンジ。 キャベツは、軽く電子レンジでチンすると、青臭みも抜け、甘みが増し、かさも減り、さらにたくさん食べられる。


豚肉とキャベツの組み合わせは多い。回鍋肉、ロールキャベツ、とんかつ,焼きそば、お好み焼き…。これも、お互いの素材がバッチリと調和した逸品。これからの夜長にこれをつまみに、一杯いかが?ビールも進むし、ご飯の上にかけてもうまい。「豚鍋 キャベツ入り」


◆◆◆「豚鍋 キャベツ入り」 ◆◆◆
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豚肉うす切り(バラ肉がうまいが好みで)、キャベツはざく切り。 鍋で豚肉、キャベツを煮て、ポン酢しょうゆで食べる。 薬味は七味、ゆずこしょう、しょうが、おろしにんにくなどで。 だし汁は水でもいいし、「ほんだし」か、「丸鶏がらスープ」でうす味に。 豆板醤、醤油、砂糖を適量で、だしを作れば、キムチ鍋風になってまたよし。



旦那の居場所、今回は「キャベツ」のおいしさについてでした。緑黄色野菜に比べると、栄養価の点では影が薄い存在と思われ勝ちのキャベツですが、ビタミンUや、骨を強くするといわれるビタミンKを多く含みます。
健胃作用もあり、我が国を代表する胃薬の名前にも使われています。 極圏を除く全世界で広く栽培される超メジャーな野菜です。 価格的にも庶民的で、使用頻度の高い人気者ですが、食用として栽培されたのは明治以降とのこと。
焼き鳥屋や串揚げ屋で縦に大きく切ったかたまりキャベツが食べ放題で、ソースと一緒に出されたりすると、何だか本当に得した気分になってしまうから不思議なものです。

98/10月


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