旦那の居場所第36回 ほうれん草礼賛

女将のダンナは「惣菜管理士」というあまり知られていない資格を持っている、 ただのサラリーマン。とにかく大の料理好き!・・で、このお店を間借りさせて あげることにしました。 名づけて「ダンナの居場所・・居酒屋のおやじを夢見て」。 これからも色々な素材を取り上げていきますのでお立ち寄りください。*この記事は1998~2005年に書かれています


『ポパイ ザ セイラーマン』の調べに誘われて、今日もポパイはほうれん草の缶詰めを一握り。あふれ出てきた「ほうれん草」を一気に頬張ると、いきなり力みなぎり・・・・。お望みの結末が待っている。子供心に「ほうれん草」は、力の源、栄養源、身体にとっても良い野菜だと認識していたものだ。そして、「ほうれん草」の缶詰めなるものが存在する、アメリカという国はどえらい国だと感心した。

● ● ● ●ほうれん草うまさの秘密● ● ● ●

ほうれん草のおいしさは、噛むほどに広がる甘さに尽きる。やや土臭ささはあるものの、くせや匂いは少ない。歯切れがよく、筋っぽさや硬さを感じさせないのも食べやすい理由と言える。

甘さとともに感じるエグ味は、何故か年々淡白になっているような気がする。このアクの正体はシュウ酸だ。このアク故に生食には適さないほうれん草だが、近年ではアクの少ない生食用も出回っている。生のほうれん草のサラダをはじめて食べたときの感動は忘れられない。カリカリベーコンとの相性の良さ、醤油ベースの和風ドレッシングが引き立てるほうれん草の甘味。今ではすっかり居酒屋やビアホールの定番メニューに成長した。

● ● ● ●ほうれん草のうまい食べ方● ● ● ●

馴染みの深いほうれん草、家庭で一番よく食べられている料理は果たして何だろう。「おひたし」か「ごまあえ」か「味噌汁の具」か、はたまた「バター炒め」も美味しい。葉の切れ込みが大きくて柔らかい東洋系は「おひたし」に、葉が厚く形の丸い西洋系は炒め物に良いというが、現在では「治郎丸」など両群を交雑した中間品種の栽培が多い。油脂によく合うので、炒め物、特にバター炒めはおいしい。クリームやベシャメルソースとの相性も良い。

グラタンに入っていると何故かほっとする野菜でもある。少し手をかければ、ピューレ状にしてスープやカレーソースにもなる。酢にもよく合うので、ポン酢、ドレッシングでおいしく食べられる。卵や胡麻との組み合わせも捨てがたい。リゾットやチャーハンなど、米料理もおいしい。鮮やかな緑が食欲をそそる、ああ、うまいかな、ほうれん草。


■■■ ・・家庭でもほんとにおいしい、ほうれん草あれこれ・・ ■■■
ほうれん草は冬に甘味を増す。外に寒風を聞きながら、コタツでふーふー食べる鍋。犬の遠吠え、火の用心の拍子木の音だけが聞こえる夜更け。日本の冬にはシンプルな「常夜鍋」が良く似合う。毎晩食べても飽きない不思議な鍋だ。

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具は豚ばら肉のスライス、ほうれん草のみ。これを鍋で水炊きにしながら、ポン酢で食べる。
薬味はたっぷりの大根おろしと七味唐辛子。そして、なくてはならないのが酒の燗。
ほうれん草は根の先の赤いところが甘く一番美味い。鉄分もここに集中している。
捨てずに株を一本一本指で分け、間の砂やごみをよく洗い捨てずに食べよう。

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たっぷりとごま油とにんにくの風味を吸い込んだほうれん草は驚くほどうまい。手早く作る「ほうれん草のナムル」

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良く洗ったほうれん草、一つまみの塩を入れた、たっぷりの熱湯に最初は根元を30秒程つけ、次に全体をゆでる。
すぐに冷水に取り、退色を留める。絞ると苦味が出るので、絞らずに両手で挟むようにして少しずつ水気を切る。
水気がちゃんと切れていれば、とても美味しい仕上がりになる。3~4cmに切り良く広げてボールへ。
ほうれん草一束に対して、ごま油小匙2、塩小匙1、にんにくのすりおりし少々。これをボールに入れて手で優しく混ぜる。
良く混ぜるうちに油が段々乳化したような状態になり、調味料がほうれん草全体に行き渡る。
力をいれずによくかき混ぜ、ほうれん草の繊維の隅々まで油がしみこめばOK。


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ほうれん草は和風だしや卵との相性も良い。また、食感のコントラストから若布と一緒に食べるのも美味いもの。手早く子供のおかずにも最適なほうれん草と海草で作る「ほうれん・草の卵とじ」


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生で食べられるほうれん草、戻した若布をフライパンに重ね、だし汁、溶き卵をかけてさっと煮る。
 


旦那の居場所、今回は「ほうれん草」のおいしさについてでした。
一年中食べられる便利な食材ですが、やはり冬場の方が葉がしっかりしていて、甘味が強いように思います。現在のイランあたりで栽培が始まり、ネパール・中国を経て日本には16世紀に伝わってきたといいます。「ほうれん草」の名はネパールの地名に因んだものですが、一般には「唐菜」「赤根菜」の名で日本各地に広まったようです。 「ほうれん草」も良いけど、「赤根菜」なんて、なんとも素敵な名前ですね。鉄分、カルシウムを多く含む野菜で、栄養価も高く、冒頭の「ポパイ」のイメージはここから来たのでしょう。

寒い冬の朝、「ほうれん草」の温かい味噌汁に迎えられて、一日が始まる幸せ。この野菜に出会うと、なんともほっとするような、優しい気分にさせられるというから、ホントほうれん草の魅力とは不思議なものです。
(02年1月 copywright hiroharu motohashi)

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