旦那の居場所第34回 烏賊礼賛

女将のダンナは「惣菜管理士」というあまり知られていない資格を持っている、 ただのサラリーマン。とにかく大の料理好き!・・で、このお店を間借りさせて あげることにしました。 名づけて「ダンナの居場所・・居酒屋のおやじを夢見て」。 これからも色々な素材を取り上げていきますのでお立ち寄りください。*この記事は1998~2005年に書かれています


烏賊(いか)のうまさが心に沁みるようになったのは、30歳に限りなく近付いてからだ。子供の頃は「味も素っ気もない」「ガムみたいな」「噛み切れない」、この食べ物を決してうまいとは思わなかった。しかし、アオリイカの握りの甘さに感動し、活きイカの造りの食感にむせび泣き、ホタルイカの沖漬けで絶倒し・・・。世の中にこんなにうまいものがあったとを思い知ったのだった。
今では耳の部分の刺身が大好物。咽喉から食道に落ちても尚、存在を主張してくれる気合の入ったうまさだ。


● ● ● ●烏賊いかイカのうまさの秘密● ● ● ●


いかのうまさの正体・・。これを一口で表現するのは至難の業だ。まずは食感。種類によって食感の楽しみも随分違う。コリコリッという歯応えが自慢のやつ、ねっとりした食感で品格を主張するやつ、つるっという咽喉越しのやつ。柔らかくてとろけるやつ、と様々だ。肉の厚さもおいしさに大きく関係するから面白い。そして風味、生のやつなら上品な甘さを楽しみたい。煮炊きをすれば独特のうま味が引き出され、焼けば香ばしさが加わる。イカのうまさは筆舌に尽くし難い。こうと説明できる言葉が見当たらない、たおやかで微妙なうまさ加減だ。

料理の向きは、やはり活き造りが一番うまいだろうか、塩辛や沖漬けも忘れてはいけない。透き通ったイカソーメンも捨てがたい。煮付けもいいし、炒めても揚げてもうまい。胴体の他にも、うまさ行列。腸(わた)は最高、耳はカリコリ、下足のうま味は濃いし、墨だっって食べちゃう。春から初夏にかけてのホタルイカ、夏場が旬のアオリイカは別格としても、今はヤリイカがうまい季節、春にはスルメイカ、夏は剣先イカ。とにかく一年中楽しめる。ああうまいかな、烏賊!

● ● ● ●河太郎の妙技に乾杯● ● ● ●

呼子の「河太郎」に初めて行ったのは8年前、女将との新婚旅行が最初だった。それ以来、2~3年に一度のペースで訪れているが、最初の感動が醒めないという点では、驚異的に満足度の高い店だ。娘「咲良」はここの板場を覗くのが大好きだ。完璧な流れ作業で、活きたイカがどんどん舟盛りの中に並んでいく。店の中央の生簀でイカが優雅に泳いでいるのも格別。シズル感ズルズルで待っている時間もまた楽し。舟盛りになって出てきた時には、むろんまだ動いている。もう食えないというほど、活き造りを堪能した後は下足と耳のてんぷら。これまた後を引くうまさで、あっっという間になくなってしまう。料理も店員の動きにも全く無駄のない店だ。

● ● ● ●イカ料理あれこれ● ● ● ●


イカの一夜干しをさっと炙って食べる幸福は日本人ならでは。誰にも教えたくない贅沢だ。堅いスルメを手で裂いてよく噛めば、口中にうまさと甘さがもんどりを打つ。スルメは松前漬けにも欠かせないし、キムチとして漬けてもうまいもの。この他には、胴体にもち米を入れて炊き上げた「イカめし」、縁日屋台でお馴染みのイカ焼き、お好み焼きは何故かたこでなくイカがあう。いか徳利なんて渋いやつもいましたね。

福岡の新しい名物「イカしょうまい」も最高。味噌やねぎと和えてぽっぽ焼き、下足を胴体に詰めて鉄砲焼き。醤油に味噌、しょうがにも良くあう。わさびやタバスコもいいが、くせのない味だけに、辛さは引き立つ。イカ墨のパスタにリゾット、地中海でもコウイカを良く食べる。にんにくやオリーブオイル、アンチョビにもよく馴染む。香草や香辛料とも相性抜群。中国料理では、何故かいつも見事な「松笠切り」や「鹿の子切り」でお目にかかる。和洋中なんでもござれのイカパワー。
イカ喰い日本人としての究極の食べ方としては、カラス(イカの口)の乾物、さきイカ、駄菓子屋にあった酢イカの数々も忘れてはならない。


■■■ 家庭でもほんとにおいしい、イカ料理あれこれ ■■■

「イカそうめん」という言葉をはじめて耳にした時は、そのネーミングの面白さに拍手した。それまでは「イカの糸造り」と呼んでいたのだが。ところで「イカそうめん」は何に浸けて食べるか?醤油かそばつゆか?いろいろ考えながらイカの身を細く引いていく包丁仕事はとても楽しいものである。ズルズルと食べたい「めかぶイカ素麺」
ika04.jpg
イカは胴体と耳のところを使う。胴体の皮は、表は2枚、裏も1枚、必ず剥こう。後は好みの細さで刺身包丁で身を引いていく。出来上がりはめかぶと混ぜて、醤油やそばつゆで好みの味付け。しゃきしゃき感が欲しければセロリ、胡瓜や茗荷を入れてもOK。おろしたしょうが、菊花を散らして。うずらの卵をぽんと一つ乗せるも良し。

● ● ● ● ● ● ● ●

いかのしゅうまいは今では福岡の名物だ。あのイカの風味と柔らかさをどうやって出すのだろう。あれこれ試してみたがうまくいかず、結局、しゅうまいやさんに聞いてしまって、納得できた。しゅうまいも良いが、家庭ではにぎやかにハンバーグ作りも面白い。「イカの柔らかハンバーグ」
ika01.jpg


ぶつ切りにしたイカ、はんぺん、グレープシードオイル、塩少々、酒をフードプロセッサーにかける。
しょうが、ねぎ、しいたけ(軸のところで良い)のみじん切り、ざく切りした下足を足して食感が残るように再度フードプロセッサーを回す。植物油脂を多めに入れるとふっくらと仕上がる。(油脂は入れただけ食べることになるので、家庭ではくせの無さと抗酸化作用を考えてグレープシードオイルを使うといい)
フライパンで両面をじっくり蒸し焼きに。タレは酢醤油、しょうが醤油などでも良いが、特製のイカ腸のソース※はとてもよく合う。
※イカの腸に塩をして30分程度置き、中身を鍋に出して、酒、みりん、少量の砂糖を加え、加熱しながらかき回し煮詰める。好みでマヨネーズと混ぜてもGood!
 (このソース!むしろ、そのまま舐めて酒のつまみにしたり、ご飯にかけて食べてもうまい)

● ● ● ● ● ● ● ●

イカの中でも、小さい種類は、風味の点でも独特の個性を持っている。むしろ、イカの魅力を小さい体に凝集していると言えるかも。瀬戸内暮らしの時代は、「べか」とか「べいか」と呼ぶ、ジンドウイカの仲間がとてもポピュラーだった。これを地中海風にオリーブオイルで炒めることで、煮付けや酢味噌では味わえないイカの風味と野趣が楽しめる。「小さいイカのカレー風味炒め」とにかくビールが進む。スペインの港町のバールで、一杯やる時のつまみには、こんな感じのイカ料理がよく似合うかな。
ika05.jpg


べいか、または、ホタルイカ等がGOOD!。写真は宮城産の「ひいか」を使った。小さいイカの旬は、初春から初夏にかけてのものなので、この季節はもんごうの下足等でも良い。片栗粉入りの水にしばらく漬け、よく洗い、水切り。
酒、塩、カレー粉、片栗粉をまぶし、たっぷり目のオリーブオイルで揚げるように炒める。
カレーの風味はイカの香りととてもよく合う。カレー風味が苦手な方は、バジルペースト(ジェノバソース)で炒めてもうまい。



旦那の居場所、今回は「烏賊(いか)」のおいしさについてでした。
烏賊は食いたし、でも、丸ごと買ってくるとなると、捌いて皮を剥くのが面倒。でも、やっているうちにだんだん慣れてくるもの。
腸と下足を抜いて、胴を縦に開き薄皮を残して包丁で切れ目を入れ、上から足方面に引っ張ると皮は意外とうまく剥けるようです。生で食べるときは寄生虫アニサキスにご用心。糸状の虫が肉の表面に見えないか、皮を剥きながらよく見ましょう。

自家製の塩辛を作るもの楽しみのひとつ。柚子の香りを入れるのがお気に入りです。日本人は大のイカ好き、世界の消費量の約6割を日本人が食べています。 コレステロールが高いと敬遠されたこともありましたが、実はイカに含まれるタウリンに、コレステロール低下作用があり、動脈硬化を抑え肝機能を高める働きもあるようです。

ところであなたはどんなイカがお好きでしょうか?やれ「どこどこ産の何イカがうまい!」とか「イカはどこそこで採れた、ほにゃららイカに限る!」とか、イカ好き談義はつきませぬ。しかし、改めて思うと、イカという代物、美味さの定義自体も、好みによってイカようにもあるような・・・ イカの種類は500種ほど、イカの好みも十人十色、それでも墨だけはみな黒いというから、ホント「烏賊(いか)」の魅力とは不思議なものです。(意味不明)
(01年11月 copywright hiroharu motohashi)

Page top