旦那の居場所第12回 筍(たけのこ)礼賛

女将のダンナは「惣菜管理士」というあまり知られていない資格を持っている、 ただのサラリーマン。とにかく大の料理好き!・・で、このお店を間借りさせて あげることにしました。 名づけて「ダンナの居場所・・居酒屋のおやじを夢見て」。 これからも色々な素材を取り上げていきますのでお立ち寄りください。*この記事は1998~2005年に書かれています

旦那の母の実家は、茨城県水戸市中心部の高台にある名刹。 裏山には孟宗の竹やぶがあり、幼い頃は、春先に訪れ筍堀りをした。 かすかな地面の盛り上がりを見付け、そっと土をどけると「ちょこん」 最後まで折らずに抜くのが一苦労、大騒ぎをしたものだ。 皮に梅干しを挟み「ちゅぱちゅぱ」やりながら、 茹で上がるのを待った。これまた、大騒ぎで熱熱のうちに皮を剥いて、姫皮をそのままむしゃむしゃ 食べる。 なんとも懐かしい子供の頃の思い出だ。


● ● ● ● 「筍のうまさの秘密」 ● ● ● ●

筍のうまさは歯応えにつきる!じっくり下茹でしても、あの繊維質の歯応えが残っているから 不思議な素材だ。口の中で猛々しい生命力が「しゃきっ」と音を立てるかのようなうまさだ。それから、独特の風味、産まれたての若々しい成長力の香り。多少「エグ味」が残っている くらいの方が、旬の筍の醍醐味というものだ。 出汁のうま味に出会うと、何故か筍の隠し持っていたおいしさが、ぱっと華開く。不思議な素材だ。 味噌やしょうゆにも良く合うし、木の芽など春の香り達との相性はもうこの世のものとは思えない。

賛否はあるが、先っぽより、根にちかい固いところが格段にうまい。 皮付きのヤツは、一刻も早く下煮してやらなくてはならない。おのれの生命力、成長力故に、 どんどん鮮度が劣化するからだ。自分の若さを持て余す。デリケートだなあ、筍。

● ● ● ● 「筍の煮物のこと」 ● ● ● ●

筍の煮物、各地方、各家庭で、「おふくろの味」があるに違いない。 関東では、やはり醤油色に仕上げる甘辛の「たけのこの煮物」 関西では、かつおの風味だけが香る淡色の「たけのこの炊いたん」 やわらかい若布とさっと煮た「若竹煮」、細かいかつお節を仕上げにまぶす「土佐煮」 ふき、わらび、ぜんまい、菜の花、うど。春野菜、山菜達と一緒に炊くのもうまい。 少し濃い目、関東風の味付けで、厚揚げなどと一緒に煮付けると、何故か花見を思い出す。

★★ホントにおいしい・・「筍」にあうあの料理★★


和風のグラタンは絶対失敗のない強い味方。具材は、ごぼうのせんぎり、レンコンなど、何でもござれ。歯応えと、味噌との相性では、筍が一段うまい。ごはんのおかずに良し、お酒のつまみに良し。手軽で、楽しい「たけのこの和風グラタン」。

◆「たけのこの和風グラタン」◆
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下茹でし、うすく出汁を含ませた筍は好みの大きさにカット、 器に盛る。味噌3、酒3、牛乳3、砂糖1を良く混ぜ、たけのこにまわしかける。好みで、味噌に、山椒の実、木の芽、わさび、マヨネーズなどを仕込んでもまた乙な味。これをオーブンまたはオーブントースターで焼く。焦げ目がつけば出来上がり。アツアツを「しゃきしゃき」いいながら食べると、たとえようのないうまさだ。水煮のパックや缶詰めでもOKだから、一年中作れる。



下茹でせず、焼いた鮮度抜群の「たけのこ」のうまさは絶品だ。堀たてなら、あるいはそのままオーブンで 焼いて縦割りにしても、うまいに違いない。市中で買ったものは、やはり一度、下茹では必要だが・・、皮付きをそのまま食べるラジカルだが繊細な味の「たけのこの姿焼き」

◆「たけのこの姿焼」 ◆
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たけのこは、皮付きのまま、下茹で。先っぽも切り落とさない。 煮えたら、縦半分に切り、表面に食べ易い様に、隠し包丁を入れ オーブンで焼く。蕗の薹味噌を塗りながら食べる。 ・・蕗の薹の味噌・・ 蕗の薹を、多めの塩を入れた、たっぷりの湯で茹で、水につけておく。 水気を絞り刻む。鍋を熱し酒、味噌、みりん、砂糖を溶かし、蕗を入れて混ぜていく。摺りゴマ、くるみなど入れてもうまいが、蕗の薹の香り第一で。



六本木の中国料理の名店「中国飯店」の名物料理に「冬たけのこの揚げ物」 があった。先日、この店の市ヶ谷の支店で食事をしたら、この料理に 出くわし涙もの。5年ぶりのあの味は健在だった。 家でやるには、缶詰めの冬笋も、手に入りにくいから、 根曲竹や淡竹(ハチク)などを使っても良い。

◆「たけのこの唐揚げ」 ◆
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えぐ味のない細いものなら生で、缶詰めの水煮なら必ず一度湯通しをしてから使う。 さっと出汁で煮てから、揚げてもよし。いきなりでもよし。 ほんのうっすら片栗粉をつけて、油で揚げる。熱熱に「アジシオ」を振って。 筍一本食べるなら、根元を煮付け、先っぽを揚げるというのがお勧め。



旦那の居場所、今回は「筍(たけのこ)」のおいしさについてでした。 見かけによらず、たんぱく質、ビタミンB1・B2、ミネラルに富み、見かけ通りに、 食物繊維が豊富。 水煮、缶詰め、青椒用の細切りの水煮パック、保存性の高い常備菜として、 いろいろな料理に使える便利な素材として、一年中食べられる人気の筍。

山形出身の先輩から頂いた自家製の月山たけのこの水煮缶詰めのうまさは今も忘れない。それにしても、この季節、皮付きのいかにも掘り立てというやつを見ると 手間がかかるのは知りながら、居ても立ってもいられずに、 ついつい買ってきてしまうというから、 本当、旬の魅力とは不思議なものです。 (99年5月 copywright hiroharu motohashi)

99/5月

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