旦那の居場所第9回 大根」礼賛
この正月、東京に帰った折り、久々に「三浦大根」を堪能した。 東京でもなかなか見かけなくなったが、 年の瀬ということもあってか、1本580円もする三浦が飛ぶように 売れていた。早速1cm程度の輪切りして、生のままかじりつく。 まだ、年を越してからの甘みはなかったが、みずみずしさ、歯切れの 良さ、まさしく冬の大根のうまさに感動した。
冬の大根はこうして生のままかじるのが一番うまい。子供の頃から 簡単に手に入った間食の1つだ。 ちょっとユーモラスな形の「三浦」、長く太く、特に中央部から下に向けて太くふくらむ。 この形ゆえに、収穫も一苦労で、生産は激減した。一方いわゆる「青首」はうなぎ昇り。 とにかく「三浦」は「青首」に比べると肉質のきめの細かさや、甘過ぎぬ甘みの複雑さ、 みずみすしい歯ごたえにおいて一段上だ。三浦(練馬)、長野の辛み、聖護院、桜島、 金沢。大根の品種、産地を選択するという贅沢、一度は味わってみたい贅沢だと思う。
● ● ● ● 「大根うまさの秘密」 ● ● ● ●
大 根ほど切り方、おろし方、加熱の仕方で表情の変わる野菜はない。 また、品種、収穫時期、一本の中でも真ん中、しっぽ、首でも劇的に風味が異なる。 生や漬物の時にはやはりあのしゃきっとした食感だ。長屋の花見ではないが、あの「パリパリ」に尽きる。 清々しい風味と食感。漬物の素材としては、最も好き嫌いを問わない全日本選手といえる。
他方、加熱をすると表情はがらっと変わる。一緒に炊いた主役のうま味をすべて抱き留める。 何故かココロ落ち着き、身体暖まる持ち味が良い。 おろしにしても、細かくおろす、鬼おろしでざくっとおろす、首のあまいところ、しっぽの辛いところ。 この素材、生半可では付き合えない。
● ● ● ● 「大根の持つ郷愁」 ● ● ● ●
「さんま、さんま、さんま苦いか、しょつぱいか」大根といえば、佐藤春夫のこの詩を思い出す。 青きすだちの汁を大根おろしに絞りかけ、さんまのはらわたと一緒に口に放りこむ。 日本人に生まれて良かったと思う瞬間だ。 大根には、焼き魚の焦げの作用を中和するオキシターゼが含まれる。 うまいばかりか、理に適った食べ方だ。冬はとかく、ビタミンが欠乏しがちだが、ビタミンCが抜群に多い。正月で弱った胃腸に「すずしろ」(大根)の入ったお粥はありがたい。消化を助けるジアスターゼの効果だ。本当に冬にはなくてはならない貴重な野菜、今冬もありがとう、大根!
★★ホントにおいしい・・「大根」にあうあの料理★★
壷井栄の小説に「大根の葉」という短編があった様に記憶する。小学生の時に読んだから、30年近く前の記憶。間違っていたらゴメンナサイ。父親を亡くした母1人子2人の家族が、貧乏故に大根の葉っぱを食べながら、それでも明るく助け合い生きていく話。
そうです。大根の葉っぱはうまいのです。鉄や、ビタミンB1、カルシウムは 根より葉にあるわけで、「大根の葉の醤油炒め」でご飯が何杯でも食べられます。
◆◆◆ 「大根の葉の醤油炒め」 ◆◆◆
大根の葉(正確には葉と茎)は大きく微塵切り。ゴマ油でよく炒め、さっと酒をふり、少量の砂糖かみりん、醤油、「ほんだし」で味付け。冷蔵庫で保存し、味が馴染むほどにうまい。油揚げやセロリの葉などと一緒に炒めても抜群。だから葉っぱは絶対捨ててはいけない。
煮るか、漬けるか、おろすか。大根の食べ方はこの3通りに代表される。でも、炒めても、またうまい。
せんぎりにして、半生かな?という感じにしゃきっと炒める。「大根のせんぎり炒め」
◆◆◆ 「大根のせんぎり炒め」 ◆◆◆
大根はせんぎり。さっと砂糖、塩をふり、余分な水分を抜く。醤油、酒、唐辛子で和え、ゴマ油などでさっと炒める。簡単だけど清々しいつまみができる。我が家では、唐辛子のかわりに、めちゃめちゃ辛い「唐辛子を 泡盛で漬けた汁」*を使う。
*泡盛に好きなだけ赤唐辛子を入れ1ヶ月位から使える。炒め物などにさっとかけるとそれは堪らなくうまい。
大根のかつらむきが始めて出来た時は嬉しかった。 でもその皮、もったいない。皮の食感は面白い。噛むと皮の方と中の方の噛んだ様子が微妙に違う。味のしみ込み方や、色のつき方まで違う。つるん、しにゃ、と美味しい、「大根の皮の炒め煮」
◆◆◆ 「大根の皮の炒め煮」 ◆◆◆
「大根の皮の炒め煮」 大根の皮はかつらむきの状態から、長細く5mmから1cm程度に切る。油でしんなりするまで、よく炒め、ひたひたの水、酒、少量の砂糖かみりんで煮て醤油、ほんだしで味付け。最後は強火で汁気を飛ばすように炒め煮る。にんじんの皮など他に捨てるような野菜をいれても良い。こ、これは何者?という 程にうまい。だから皮は絶対捨ててはいけない。
旦那の居場所、今回は「大根(だいこん)」のおいしさについてでした。
やはり大根といえば、各地の漬物。一夜漬け、ぬか漬け、たくあん、守口漬け、いぶりがっこ、さくら漬け、なた漬け、なます、べったら漬け等など。こちとら江戸っ子だから、時々無性にべったらが食べたくなります。
写真は「手作りの変わり漬け3種」、にんにく醤油漬け、ハチミツ老酒漬け、自家製べったら(酒粕で)
古くから大根は、無病息災につながる食べ物、病気の予防になるという認識があった様で、流石に昔の人は偉い!と思います。
そうそう、申し遅れましたが、やはり大根といえば、風呂吹き。たいそうシンプルな味付けでも、あつあつをつつきながら熱燗で一杯やれば、 危うく腰を抜かしてしまう位、「うまい!」というからほんと大根の魅力とは不思議なものです。
(99年2月 copywright Hiroharu Motohashi)