旦那の居場所第8回 山芋礼賛
女将のダンナは「惣菜管理士」というあまり知られていない資格を持っている、 ただのサラリーマン。とにかく大の料理好き!・・で、このお店を間借りさせて あげることにしました。 名づけて「ダンナの居場所・・居酒屋のおやじを夢見て」。 これからも色々な素材を取り上げていきますのでお立ち寄りください。*この記事は1998~2005年に書かれています
和食店でスタミナ定食なるメニューがある場合、十中八九、山芋が使われていると思って良い。 「スタミナ」をイメージする和の山の幸はこれをおいて他に無い。山芋の故郷、医食同源の国、 中国では、 古くから精のつく食べ物とされ「山薬」とも呼ばれた。我が国でも自然薯(ジネンジョ)などは、 「山うなぎ」なる異名もあるほど。 栽培の歴史も長く、日本人とは切っても切れない間柄という、今回は「山芋」礼賛といきたい。
● ● ● ● 「とろろの響き」 ● ● ● ●
「麦飯とろろで十何杯」、とろろを熱いごはんにかければ、たちどころに何杯でも、胃袋に吸い 込まれていく。 小学生の頃から、大のとろろ好き。晩ごはん作りのお手伝いに「空気を含ませる様に、よーく かき混ぜて」と言われて、 ダシで伸ばしたものだ。はじめて「とろろ」を意識したのは、こうして自分でかきまぜた後で、 手が無精にかゆくなった時だったと思う。
「とろろ」を扱う時は、絶対にお湯でなく、水。さもないとますますかゆくなる。そうも母親 に教えられた。 旦那の生家では、長い円柱形のいもより、いちょうの形をしたものが良いとされていた。
女将のダンナは「惣菜管理士」というあまり知られていない資格を持っている、 ただのサラリーマン。とにかく大の料理好き!・・で、このお店を間借りさせて あげることにしました。 名づけて「ダンナの居場所・・居酒屋のおやじを夢見て」。 これからも色々な素材を取り上げていきますのでお立ち寄りください。*この記事は1998~2005年に書かれています
● ● ● ● 「山芋うまさの秘密」 ● ● ● ●
旦那の弟(33歳)は、大学卒業と同時に、建設関係の会社に入社し、以来東北地方を総なめに している。帰省の際は必ず東京では手にはらないものを携えてやってくる。ある時は「自然薯」。
ひげ根はガス火で取り、擂り鉢に擦り付けておろしていくが、その粘りの強さといったら、想像 を絶する。味も絶品。何時間もかかって掘り起こすだけのことはある貴重品だ。
東京にいる頃は、イチョウの葉の形をした「やまといも(銀杏薯とも)」を良く食べたが 、岡山・広島ではみかけないので 調べたら、やはり関東が産地らしい。長芋よりずっとどっしりとした旨みがあり、おろしても ネットリしている。一方、関西では「つくねいも」、「大和薯」などと呼ばれる団子型のイモがうまい。 丹波や伊勢のものが有名だ。 岡山ではじめてみたのが「むかご」。イモのつるの葉腋にできるもので、「むかごごはん」 にして食べたりする。
山芋のうまさは、まずあの食感。おろしてねっとり。刻んでしゃきしゃき。そして野趣に富 んだ味わい。 だしや醤油、味噌との相性も良く、なめらかに包み込んで渾然一体となってしまう。海苔で 巻いて揚げてもいい。 そうそう「とろろそば」なる料理もあったなあ。味噌汁や吸い物、茶碗蒸もいい。まぐろや いかなど淡白な刺身と相性抜群。ああ、うまいかな、山芋。
★★ホントにおいしい・・「山芋」にあうあの料理 ★★
長芋は肉質が粗いので、すりおろすと水っぽい。短冊、せんぎりなどで歯ごたえを楽しんだ方がうまい。 しゃきしゃきとした食感は、他の食材には見当たらない鮮烈さがある。 いろいろなものに合わせてみると、もう病みつきになる。「長いものたたき」
◆◆◆ 「長いものたたき」◆◆◆
長芋は薄く切ってから、包丁で細かく叩いて、小さな粒を残す。 無理してせんぎりにするより、この方がずっと簡単。 おくら、納豆、梅干し、漬物の類など、同様に包丁で叩く。 だしで割った醤油をかけ、かきまぜてズルズル食べるとうまい。 お好みで、もみのり、山葵などをあしらうと、これがまたうまい。 イカやまぐろの賽の目をいれてもうまいが、なるべく素朴にいきたい。
広島に越して半年。少しずつうまい店を発掘しつつある。可部線緑井駅のすぐ近くにある時鮨(ときずし)もその一つ。その店のメニューに「とろろ焼」 がある。 ねとっとした食感とお焦げの香ばしさが同時に味わえる逸品。オリジナルは陶板で焼いてそのまま出てくるのだが家庭ではフライパンでもOK。
◆◆◆ 「とろろ焼」 ◆◆◆
長芋はなめらかにおろして、だしで伸ばす。フライパンにサラダ油をひき、バターを少量。 イモを流し込みフタをしてじっくり焼く。ひっくり返す必要はない。 底が焦げないよう火加減には気を配る。表面にまで火が通れば、もみのりを散らして出来上がり。 陶板でなくても、小振りのフライパン、パエリヤ鍋、ガラスの耐熱パンなどなら、そのまま食卓に出してふーふースプーンでつつくのが楽しい。 大和芋など種類を変えれば、また違った食感が楽しめる。
長芋をごろっと煮転がしたものも懐かしい。さといもにはない清々しい食感が魅力だ。 きめは粗いがしゃきっとしたさわやかな歯ごたえ。 あっさりとうす味に炊いた「長芋のふろふき」。柚子の香りを添えて熱燗でいくのもいい。
◆◆◆ 「長芋のふろふき」◆◆◆
長芋は大きく輪切り、フライパンで軽く表面を焼き、だしで炊くだけ。 だしは、塩と「ハイミー」のみ。醤油は入れない方がうまいと思う。 味を染み込ませるために鍋で一度さます。食べる直前にもう一度温めて、 皿に盛り、少しだしをかけ、柚子の香りを合わせる。
旦那の居場所、今回は「山芋(ヤマイモ)」のおいしさについてでした。
「牛たんの塩焼きに麦とろごはん」「本マグロの山かけ」、メインの食材に決して負けない、不思議な 存在感を持っている「山芋」。そうかと思えば、蕎麦のつなぎや、お好み焼きの隠し味など、完全に控えめな脇役に回ることもあります。そういえば、鹿児島みやげ、「かるかん」の原料でもありました。やっぱり日本人とのつきあいの長さをひしひしと感じてしまいます。
元来、麦とろは、東海道の旅篭の看板料理として、そのうまさが全国に広がったものだそうで、ここの味付けは味噌がベースの様です。 旅の疲れを取る食事としては最高だったのではないでしょうか。
とろろ汁にポコンと卵を割り入れた時のあのドキドキ、家族で食べるときなど、誰かがどばっと一気にめし椀にいれてはしまわないかと、もう気になって仕方がないというから、ほんと「山芋」の魅力とは不思議なものです。
98/12月